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第三章 夢の深淵編
28話目 帰路(二)
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しばらく経つと、瞬く間に辺りは暗闇に呑まれる。駅に設置された簡易的な長椅子に腰かけ、迎えを待つ見藤。その隣には霧子、反対には猫宮が座り顔を洗っている。
流石に肌寒くなってきたのか、見藤は隣でくつろいでいた猫宮を抱き上げると膝に乗せる。そんな勝手をする見藤に猫宮は抗議の声をあげた。
「おい。俺は湯たんぽか」
「まぁ、そう言うな」
じろりと見藤を見上げ睨みつけるが、猫宮は満更でもなさそうに既に彼の膝に腰を下ろしている。
それを見ていた霧子は、そっと見藤との距離を詰める。見藤は一瞬目を見開いたが、その目はふっと優しい眼差しに変わった。霧子は気恥ずかしいのか視線を合わせようとしない。
だが、彼女のその耳は少し赤く色を変えていた。そうして見藤と霧子、二人の肩が少しずれた位置で触れる。
「ははーん、機嫌がいいな。やっと仲直りしたのか」
「…………、ほっとけ」
そんな二人を膝から見上げていた猫宮が茶々を入れた。心なしか、その表情はにやついている。
見藤はぶっきらぼうに答えると、仕返しと言わんばかりに猫宮の尾を握る。みぎゃっ、と鳴き声を上げ、掴まれた尾を見ようと後ろを振り返る。
すると、その視線の先に赤色灯が光るのを見た。どうやら迎えのようだ。
駅の脇道に赤色灯を灯しながらゆっくりと停車した一台のパトカー。降りてきたのは若い警官だった。彼は見藤を見ると、あっ、と声を上げてこちらです、と案内してくれた。
見藤は申し訳なさから、よそよしい態度を取りながらも言われるがまま車に乗り込んだ。すると、見藤の様子に若い警官は気を利かせてなのか、名を名乗った。
「自分も斑鳩なので。事情はある程度、理解しております」
「……そう、助かります」
若い警官は誇らしげにそう言った。
どうやら斑鳩家は、全国の駐在所などにこうして人を置いているようだ。そうすれば怪異による事件、事故などにも事情を知る者をすぐさま派遣できるという手筈なのだろう。
見藤が知ろうとしないだけで思いの外、世は裏でこうして繋がっているのかもしれない。
そうして、見藤達は最寄りの大きな駅まで乗せてもらう事になった。だが、若い警官は徐々にバックミラーを見る回数が増え、次第にその表情は曇っていった。
そのバックミラーに映っていたのは、大きな化け猫と亭々たる長身の女怪異がすし詰め状態になりながらも乗り合う姿だったのだ。そして目的地に着いた先で何を食べるのか言い争っている。
いくら怪異が身近な呪いの家に生まれようと、経験の少ない者が目にすれば猫宮と霧子の存在に対して恐れを抱くのは必然的だ。
しかし、その会話の内容がその姿と醸し出す雰囲気に不釣り合いで、最早一周回って不気味に思えて来るのだろう。
見藤は少し気まずそうにしながらも追及されまいと、器用に頬杖を付きながら目的地に到着するまで、外の暗闇を眺めていた。
◇
そうして辿り着いたのは、ある程度人通りのある駅だった。見藤は「お世話になりました」と、軽く頭を下げたのだが、若い警官は恐れ多いという素振りを見せて早々に立ち去ってしまった。
彼のそんな様子に申し訳なく思う見藤を余所に、猫宮と霧子は夕食の相談を終えたようだ。早く行こうと言わんばかりに、急かすような視線を送っている。
(流石に今日は一泊か……)
どうにも斑鳩の言いつけは守れないらしい。
そんなこんなで、見藤が事務所に帰り着くまで二日を要した。
出迎えた久保と東雲に泣きつかれた見藤は、二人を宥めるのに苦労していた。だが、心なしかその表情は柔らかった。
流石に肌寒くなってきたのか、見藤は隣でくつろいでいた猫宮を抱き上げると膝に乗せる。そんな勝手をする見藤に猫宮は抗議の声をあげた。
「おい。俺は湯たんぽか」
「まぁ、そう言うな」
じろりと見藤を見上げ睨みつけるが、猫宮は満更でもなさそうに既に彼の膝に腰を下ろしている。
それを見ていた霧子は、そっと見藤との距離を詰める。見藤は一瞬目を見開いたが、その目はふっと優しい眼差しに変わった。霧子は気恥ずかしいのか視線を合わせようとしない。
だが、彼女のその耳は少し赤く色を変えていた。そうして見藤と霧子、二人の肩が少しずれた位置で触れる。
「ははーん、機嫌がいいな。やっと仲直りしたのか」
「…………、ほっとけ」
そんな二人を膝から見上げていた猫宮が茶々を入れた。心なしか、その表情はにやついている。
見藤はぶっきらぼうに答えると、仕返しと言わんばかりに猫宮の尾を握る。みぎゃっ、と鳴き声を上げ、掴まれた尾を見ようと後ろを振り返る。
すると、その視線の先に赤色灯が光るのを見た。どうやら迎えのようだ。
駅の脇道に赤色灯を灯しながらゆっくりと停車した一台のパトカー。降りてきたのは若い警官だった。彼は見藤を見ると、あっ、と声を上げてこちらです、と案内してくれた。
見藤は申し訳なさから、よそよしい態度を取りながらも言われるがまま車に乗り込んだ。すると、見藤の様子に若い警官は気を利かせてなのか、名を名乗った。
「自分も斑鳩なので。事情はある程度、理解しております」
「……そう、助かります」
若い警官は誇らしげにそう言った。
どうやら斑鳩家は、全国の駐在所などにこうして人を置いているようだ。そうすれば怪異による事件、事故などにも事情を知る者をすぐさま派遣できるという手筈なのだろう。
見藤が知ろうとしないだけで思いの外、世は裏でこうして繋がっているのかもしれない。
そうして、見藤達は最寄りの大きな駅まで乗せてもらう事になった。だが、若い警官は徐々にバックミラーを見る回数が増え、次第にその表情は曇っていった。
そのバックミラーに映っていたのは、大きな化け猫と亭々たる長身の女怪異がすし詰め状態になりながらも乗り合う姿だったのだ。そして目的地に着いた先で何を食べるのか言い争っている。
いくら怪異が身近な呪いの家に生まれようと、経験の少ない者が目にすれば猫宮と霧子の存在に対して恐れを抱くのは必然的だ。
しかし、その会話の内容がその姿と醸し出す雰囲気に不釣り合いで、最早一周回って不気味に思えて来るのだろう。
見藤は少し気まずそうにしながらも追及されまいと、器用に頬杖を付きながら目的地に到着するまで、外の暗闇を眺めていた。
◇
そうして辿り着いたのは、ある程度人通りのある駅だった。見藤は「お世話になりました」と、軽く頭を下げたのだが、若い警官は恐れ多いという素振りを見せて早々に立ち去ってしまった。
彼のそんな様子に申し訳なく思う見藤を余所に、猫宮と霧子は夕食の相談を終えたようだ。早く行こうと言わんばかりに、急かすような視線を送っている。
(流石に今日は一泊か……)
どうにも斑鳩の言いつけは守れないらしい。
そんなこんなで、見藤が事務所に帰り着くまで二日を要した。
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