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第一章 劈頭編
6話目 出張、京都旅(三)
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キヨから手渡された紙には神社の住所と、行き方が丁寧に書かれていた。その住所に覚えがあった久保はすぐさま手元のスマートフォンで調べ始める。久保は「やっぱり」と小さく呟くとスマートフォンの画面を見藤に見せた。
見藤は小さな文字で書かれた画面が見づらいのか、眉を寄せている。
「ここって、最近人気の縁切り神社ですよね」
「ん?」
「なんでも悪縁がスパーンっと、気味が悪いほどよく切れるっていう噂の」
「そうなのか」
「そうですよ。嫌な人間関係だったり、お酒、浪費癖だったり。とにかく自分が切りたい縁を神様に願うと本当に縁が切れるらしくて」
久保の説明に首を傾げる見藤は世間の流行に疎い、彼らしい反応だった。
そこで久保はふと気になった。怪異や霊は存在していると認識しているが、こうして神社に祀られている神はどうなのだろうか。好奇心に任せて見藤に尋ねてみる。
すると、そんな久保の問いにも見藤は丁寧に答えた。
「まぁ、いるだろうな。御霊信仰や怪異の類だって生きている人間が懇切丁寧に祀り上げれば、立派な神さまだ。土地神なんかもそれに相当する。正真正銘、古から存在してきた、生まれながらにしての神様というのは……現代にも存在しているのかどうか知らんが」
「へぇ」
「それも信仰によるエネルギーの集約と認知の関係だろうな」
なんだか小難しい話になってきた。要は、人間の信仰心によって神の力は強まったり弱まったりするらしい。
一先ずは考えても仕方がないと二人は目的地へ向かうことにした。
目的地に到着する頃、時刻はすっかり夕方間際だった。大型連休の影響か、それでも参拝客は多いように感じる。この場にいる参拝客のほとんどが、何かしらの悪縁を断ち切ろうとこの神社を訪れているのだと思うと、人の悩みは尽きないものだとしみじみと考える。
見藤はそんな人の中に何かを視ているのか、時折何かを目で追っていた。そして、不思議と初めて来たようには思えない既視感に首を傾げるのであった。すると――。
「見藤さん!!??」
不意に聞き慣れた声がした。
二人が振り返ると、巫女装束に身を包んだ東雲がこちらに向かって来る姿が見えた。寧ろ、この人の流れで見藤に気付く東雲の目の良さが恐ろしい。
そういえば、東雲はこの大型連休は実家に帰省し、実家の手伝いをすると話していたことを、久保は思い出す。
「え、東雲さんの実家って……。というか、僕もいるんだけど」
「ここだったみたいだな。縁を切る神社で縁を手繰り寄せるなんぞ……冗談だろ」
見藤の言う通り、なんとも皮肉の効いた冗談だろう。
東雲は二人の元まで辿り着くと、見藤へにじり寄る。純粋な視線を送り、きらきらと輝いている。そんな彼女の視線に居たたまれなくなった見藤はさっと視線を逸らしていた。
「ここで何しとるんですか? 偶然ですか? それとも必然ですか?」
「いや、出張ついでに突然の依頼があってな……」
東雲のやや食い気味な質問責めに恐怖を覚える見藤。未だ東雲に対し多少の苦手意識があるのか、久保を前へ押しやり少しだけその陰に隠れる。中年のなんとも情けない姿である。
一方、東雲は見藤に会えると思っていなかったのだろう、興奮して口調が方言に戻っている。なんとも蚊帳の外である久保は人知れず、心の中で涙を流すのであった。
見藤は差し障りのない範囲で依頼について簡単に話す、東雲がどこまでこの神社の運営に関わっているのか測りかねたのだろう。お守りの一件然り、見藤のそういう気遣いが東雲にとって好ましいのかもしれない。
事情を話し終えた見藤は依頼主である神主の所在を尋ねた。
「そういうことでしたら、うちの祖父を呼んできますね」
「あぁ、すまない。頼めるか?」
「もちろんです!」
元気に返事をし、その場を後にする東雲。
するとしばらくして、優しい雰囲気を纏った老人がこちらへと歩いてくる。この人が東雲の祖父であり、ここの神主なのだろう。見藤と軽く挨拶を交わすと祖父は口を開いた。
「キヨさんから連絡がありましたよ。まさか貴方に来てもらえるとは思わなんだ」
「いえ、キヨさんから頼まれたものですから」
「ほほ、有難いです。ではこちらへ、一旦社務所にご案内致します。詳しい話はそこで」
「お願いします」
見藤と祖父、二人の会話を聞いていた久保と東雲は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。二人は同じ疑問を抱いているかのように思えたのだが――。
(本当、見藤さんって何者なんだろ……。こういう界隈では有名な人なのかな?)
(はぁ、仕事モードの見藤さんも格好いい)
実のところ、全く異なっていた。
見藤は小さな文字で書かれた画面が見づらいのか、眉を寄せている。
「ここって、最近人気の縁切り神社ですよね」
「ん?」
「なんでも悪縁がスパーンっと、気味が悪いほどよく切れるっていう噂の」
「そうなのか」
「そうですよ。嫌な人間関係だったり、お酒、浪費癖だったり。とにかく自分が切りたい縁を神様に願うと本当に縁が切れるらしくて」
久保の説明に首を傾げる見藤は世間の流行に疎い、彼らしい反応だった。
そこで久保はふと気になった。怪異や霊は存在していると認識しているが、こうして神社に祀られている神はどうなのだろうか。好奇心に任せて見藤に尋ねてみる。
すると、そんな久保の問いにも見藤は丁寧に答えた。
「まぁ、いるだろうな。御霊信仰や怪異の類だって生きている人間が懇切丁寧に祀り上げれば、立派な神さまだ。土地神なんかもそれに相当する。正真正銘、古から存在してきた、生まれながらにしての神様というのは……現代にも存在しているのかどうか知らんが」
「へぇ」
「それも信仰によるエネルギーの集約と認知の関係だろうな」
なんだか小難しい話になってきた。要は、人間の信仰心によって神の力は強まったり弱まったりするらしい。
一先ずは考えても仕方がないと二人は目的地へ向かうことにした。
目的地に到着する頃、時刻はすっかり夕方間際だった。大型連休の影響か、それでも参拝客は多いように感じる。この場にいる参拝客のほとんどが、何かしらの悪縁を断ち切ろうとこの神社を訪れているのだと思うと、人の悩みは尽きないものだとしみじみと考える。
見藤はそんな人の中に何かを視ているのか、時折何かを目で追っていた。そして、不思議と初めて来たようには思えない既視感に首を傾げるのであった。すると――。
「見藤さん!!??」
不意に聞き慣れた声がした。
二人が振り返ると、巫女装束に身を包んだ東雲がこちらに向かって来る姿が見えた。寧ろ、この人の流れで見藤に気付く東雲の目の良さが恐ろしい。
そういえば、東雲はこの大型連休は実家に帰省し、実家の手伝いをすると話していたことを、久保は思い出す。
「え、東雲さんの実家って……。というか、僕もいるんだけど」
「ここだったみたいだな。縁を切る神社で縁を手繰り寄せるなんぞ……冗談だろ」
見藤の言う通り、なんとも皮肉の効いた冗談だろう。
東雲は二人の元まで辿り着くと、見藤へにじり寄る。純粋な視線を送り、きらきらと輝いている。そんな彼女の視線に居たたまれなくなった見藤はさっと視線を逸らしていた。
「ここで何しとるんですか? 偶然ですか? それとも必然ですか?」
「いや、出張ついでに突然の依頼があってな……」
東雲のやや食い気味な質問責めに恐怖を覚える見藤。未だ東雲に対し多少の苦手意識があるのか、久保を前へ押しやり少しだけその陰に隠れる。中年のなんとも情けない姿である。
一方、東雲は見藤に会えると思っていなかったのだろう、興奮して口調が方言に戻っている。なんとも蚊帳の外である久保は人知れず、心の中で涙を流すのであった。
見藤は差し障りのない範囲で依頼について簡単に話す、東雲がどこまでこの神社の運営に関わっているのか測りかねたのだろう。お守りの一件然り、見藤のそういう気遣いが東雲にとって好ましいのかもしれない。
事情を話し終えた見藤は依頼主である神主の所在を尋ねた。
「そういうことでしたら、うちの祖父を呼んできますね」
「あぁ、すまない。頼めるか?」
「もちろんです!」
元気に返事をし、その場を後にする東雲。
するとしばらくして、優しい雰囲気を纏った老人がこちらへと歩いてくる。この人が東雲の祖父であり、ここの神主なのだろう。見藤と軽く挨拶を交わすと祖父は口を開いた。
「キヨさんから連絡がありましたよ。まさか貴方に来てもらえるとは思わなんだ」
「いえ、キヨさんから頼まれたものですから」
「ほほ、有難いです。ではこちらへ、一旦社務所にご案内致します。詳しい話はそこで」
「お願いします」
見藤と祖父、二人の会話を聞いていた久保と東雲は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。二人は同じ疑問を抱いているかのように思えたのだが――。
(本当、見藤さんって何者なんだろ……。こういう界隈では有名な人なのかな?)
(はぁ、仕事モードの見藤さんも格好いい)
実のところ、全く異なっていた。
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