12 / 18
12 見られた?
しおりを挟む奏子ちゃんとはもう、このままなのかな。エリサワ同盟はもう、終わりなのかな。
ケンカみたいになって、このまま二度と、仲よくはなれないのかな。
私はどうして友だちと、長つづきしないんだろう。
ずっとずっと、仲よくしていたいのに。
奏子ちゃんとも、二度と笑いあえないのかな。
――そんなのはイヤだ!
私の力のことは言えないけれど、元気づけてあげたい。どうしたらいいんだろう。
仮入部を考えているダンス部には、今日もいけない。奏子ちゃんと仲直りして、明るい心を取りもどしてあげて、真希とも話せるようになって、それからダンスに集中したい。
帰宅後、チェリーを散歩につれだした。頭を整理したいとき、散歩はヒントをもらえるんだ。
やがて公園についた。ここで咲也くんと会わなくなって、しばらくたっている。
なにか話しあいが必要なときには、電話をすることにした。
私がそうしようって言ったんだ。真希を、やっぱりヘンに刺激したくないから。
ワンワンと、チェリーが鳴く。
「チェリーがな、〝恵梨ちゃーん。トッテコイやろうよー〟って言ってるぞ」
本来のハチドリの姿にもどったブルーベルが、私の肩で教えてくれた。
五メートルのリードを伸ばして、水色のボールを、チェリーの鼻先で見せる。
にこにこ笑うような顔で、キラキラした瞳で、チェリーは舌をだして私を見つめる。
「チェリー……取ってこい!」
ボールを投げた。走りだすチェリーの耳が、ダンボみたいにわさわさ揺れる。
かわいいんだから、チェリーは。
そのチェリーの言葉が、ブルーベルを通じてわかるなんて、すごいことだよね。
だけど、今のチェリーの言葉なら、私にはわかった。トッテコイ、早くやりたいって。
チェリーがボールをくわえて、私のところにかけよってきた。
「いい子だねー、チェリー、いい子! かわいいねー」
がしがし、たれ耳の後ろをかいてあげる。
ワン! とほえるチェリーの言葉が、私にもわかる。
「この子さ、〝すごいでしょ? ちゃんとトッテコイできたよ〟って、言ってるよね?」
「ああ、その通り。さすがは飼い主」
「まあね」
それからベンチにすわって、青空を見あげた。
――みとめてあげたい 今の自分を
合唱曲の歌詞が、頭の中に浮かんだ。
意味がよくわからないって、前に奏子ちゃんに話したら。
「泣くほどつらいことがあっても、いつか未来はきっと笑える。だから、泣き虫の自分をみとめてあげて、今は休んでいてもいいんだよ、って意味じゃないかな」
そんなふうに解説してくれた。
奏子ちゃんは、歌詞をよく研究して、かみしめながらピアノを弾いているんだ。
たしかに、今の奏子ちゃんとダブらせると、歌の意味が理解できる。
ミイちゃんを亡くしたショックで、今は沈んでいる、奏子ちゃん。
それでも、立ち直らなくちゃいけないって、わかっている。
だから、伴奏をつづけたいって言ったんだ。
「奏子ちゃん、どうしたら元気になってくれるかな」
思わず声がでたら、ブルーベルがベンチの背もたれに、ちょこんとのった。
『きっとさ、〝心配してるよ、元気になってね〟、そういう気持ちが伝わったらいいんじゃないか? 思っているだけじゃ、伝わらないものだし』
「思っているだけじゃ、伝わらない? だったらそれって、どうやって伝えたらいいの?」
「そうだなあ……」
コバルトブルーのハチドリは考えこむと、羽を広げて私を見た。
「女の子には、やっぱり花じゃないかな? おそらくね、花を見たらちょっとは明るくなるんじゃないかな」
「花?」
「そうさ。野に咲く花でも、花屋の花でも。花と一緒に気持ちをさ、しっかり伝えるんだよ」
「花なら、おばあちゃんに相談してみようかな」
「ああ、そうしなよ」
「ちょっと? 恵梨、なにしてるの?」
うしろから人の声がしたとたん、ブルーベルは私の頭の上のヘアピンに姿を変えた。
こ、この声って……。
「真希っ!」
ふり向きざま、あわてて立ちあがった私に、チェリーがびくっとした。私はすぐにリードを短く持って、その隣にしゃがんだ。どうしてここに真希が?
「い、犬の散歩だよ……真希も、お散歩?」
笑顔で言ってみる。真希のおつきの女の子たちはいなかった。
「私はコンビニへいく途中」
「そっか、この公園通ったほうが、近いもんね」
「てか、犬の散歩なんて、見りゃわかるっての。今、虫に話しかけてたでしょ?」
「虫!?」
「ハチみたいな、ガみたいな、シオカラトンボみたいの」
『なんだと、こいつめ~っ!』
頭の中に、ブルーベルの怒った声が聞こえる。私は頭を、っていうか、二次元が三次元のハチドリになったりしないように、とっさにヘアピンをおさえた。
それから首を左右にふってみせる。
「まさか、そんなことあるわけないよ!」
「いいえ、ちゃーんと聞こえてましたあ! 恵梨は虫に話しかけてましたあ!」
ほんとうに聞かれていたんだ、見られていたんだ……どうしよう。
「あ、ああ、ええっと……これ!」
私はヘアピンをはずして、ベンチの背もたれにのせてみた。
「これに話しかけてたの……ははは。やだな、見られてたなんて、はずかしい」
「なんか気持ちわるっ! 恵梨ってヘアピンに話しかける、さびしい人なんだね!」
真希はキンキンした声で言うと、ポニーテールをゆらして歩いていった。
だいじょうぶかな……バレたりしていないよ……ね?
『平気だろ? 信じるわけないし』
だよね、平気、平気!
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない女の子
咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。
友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。
貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
みかんに殺された獣
あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。
その森には1匹の獣と1つの果物。
異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。
そんな2人の切なく悲しいお話。
全10話です。
1話1話の文字数少なめ。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる