フラワーキャッチャー

東山未怜

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6 プレゼント

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 家についてから、すぐにチェリーと散歩へでかけた。
 公園に入る。
 
 かけだしたチェリーの先に、咲也くんがいた。チェリーはすっかり、咲也くんが大好き。

 あれ? 咲也くんがこっちに向かって走りだす。
 私はリードをぐいっと引っぱって、立ち止まろうとした。
 なのに咲也くん、止まってくれない……?
 
 え、ちょっと、ヤバッ――――ドンッ!

「きゃっ!」
「うわっ!」

 なにこれ、デジャヴ……って、昨日の朝、咲也くんにつき飛ばされたばかり。またしても!

 尻もちをついた私は、すぐに体を起こした。
「ねえ、だいじょうぶ?」
 倒れたままの咲也くんをのぞきこむ。クローバーの茂みの上に、大の字に伸びている。
「ね、咲也くん、平気?」
 返事のかわりに目は開いた。だいじょうぶみたい。
 チェリーが心配しそうにその頭の匂いをかぐと、咲也くんはむくりと起きあがった。
 クローバーの上にあぐらをかく。それから私の顔を、まじまじと見つめた。

「もう一度ぶつかったらその力、僕にもどるかなって思ったのに。あーあ。ダメだったか」
「そっか……力をもどす方法、わからないんだね?」
「残念ながら。長老にきけばいいんだけど、なかなかきけなくて」
「なんできけないの?」
「だってさ、そんなおっちょこちょいなミスをしたってバレたら、僕、こっぴどくしかられ
ちゃうからさ」

 ……は? なにそれ、なんなんですか咲也くん!
 きいて怒られるのは一瞬。
 だけどきかなかったら、力がこのままなのは、もしかしたら一生なんだよ?

「咲也くん! ちゃんときいてよ、お願いだから!」
「うん、そうだよね。わかってる。おわびに、ちょっと待ってて」
 咲也くんは座っているあたりを見わたした。クローバーのじゅうたんの上を。
「……あった。はい、プレゼント。恵梨ちゃんには、お世話になるから」
 咲也くんの指先から、そっと受け取る。それは四つ葉のクローバーだった。
 すごい、すぐに見つけられるなんて。
「ありがとう!」

 ぽっ。顔が熱くなる。
 ドキンドキン……心臓が高鳴る。胸の中で、ハムスターでもふるえているみたい。
 あったかい春の風が吹いて、ほっぺたをなでていく。
 いやいやいやいやっ! こんなことで、だまされないぞーっ!
「恵梨ちゃん。心の花、集められた?」
「え? まだ……咲也くんのザリガニ草と、私のヒマワリだけ」
「なら、ひとつだね。僕は魔法界の住人だから、数にはカウントされないんだよ」
「なんだ、残念。咲也くんは、今までどれくらい集めたの?」
「……ゼロ」
「ゼロ? ひとつも集めてなかったの?」
「うん。だってさ、僕が人間界にきたの、あの中学に入った前日だったし。まだ人間とは、だれとも話してなかったし」
 わわわ……なんですか、なんなんですか~っ!
「だから、恵梨ちゃんがはじめて出会った人間なんだよ」
 首をかしげて、にっこりほほ笑む咲也くんてば……なにその甘いマスク!
 私がはじめて出会った人間……ひかえめに言ってもうれしい。
 ……じゃなくて!

「一個も集めてないなんて! それってほんとうに、私ががんばんなきゃいけないってことじゃん!」
「ま、そういうことになるよね」
「もーうっ! 力をもどす方法、ぜったい見つけてよね?」
「それはもちろん。それじゃ、僕はもういくね。まただれかさんに見られたら、恵梨ちゃんがたいへんだから」
「あ! 今朝のバトル、やっぱ気づいてた?」
「そりゃあね。見ていて気持ちのいいもんじゃないよね」
「おはずかしい……」
 あのときの私、真希に言い返した。頭にきたから、思うまま言葉にしたけれど……。
 あそこで言いあったって、関係が悪くなるだけだ。
 咲也くんが声をかけてくれたおかげで、ケンカに発展しなかったのが、幸い。
「なにか困ったら、いつでも言ってね。僕がアシストするから」
 立ちあがった咲也くんは、チェリーの頭をなでると、「またね」と、いってしまった。



 家に帰ってすぐ、私は辞書のあいだに四つ葉のクローバーをそっとはさんだ。
 咲也くんからのプレゼントを。
 うれしいなあ。男の子からプレゼントをもらうなんて、はじめて。
 人間、じゃないけれど。魔法界の人だけれど。
 思わず、にんまり。



 夕ごはんのあと、向かいに座るおばあちゃんが、肩に手をあてて首をまわしはじめた。
「おばあちゃん、だいじょうぶ?」
「今日は午前中、レッスンの生徒さんが多くて、つかれちゃったのよ」
 なのに、パートで忙しいお母さんに代わって、ごはんの支度をほとんどしてくれたんだ。私も、ちょっとは手伝ったけど。

「ね、おばあちゃん。肩もんであげる」
 私はおばあちゃんの後ろに立って、肩をもみはじめた。
 おばあちゃんて、こんなに小さかったっけ。細いっていうか、折れちゃいそうな感じ。
「ありがとうね。いい気持ち」
 おばあちゃんの、しみじみとした声が聞こえた、そのとき。
 トレーナーの下の胸もとで、ペンダントが熱くなるのがわかった。
 そっか、おばあちゃんにこうしてさわっているからだ。心が通じているんだ!

「もうだいじょうぶよ、ありがとう。さて。明日のレッスンの準備をしなくちゃ」
 楽しそうに、おばあちゃんが笑う。
「おばあちゃん……いつもありがとう」
「あら。中学生になったら、なんだかちょっと大人になったみたいね」
「そんなことないよー」 
 私は心がむずがゆくて、リビングのすみのソファーに移動した。

 ペンダントを取りだすと、水晶には花の姿が現れていた。
 これ、なんだっけ。白っぽくて、真ん中が黄色っぽくて、星形の花……水仙だ。
「おばあちゃんて、冬に生まれたんだよね? えっと、たしか十二月の……」
「九日よ。どうかした?」
 花の写真集をめくりながら、こたえてくれた。
「ううん、なんでもない!」
 心の花、ひとつゲットできたってことかな。

 そのうちにお父さんが会社から帰って、着がえてからリビングに入ってきた。
「お、めずらしい。今日は恵梨がごはんよそってくれるんだ」
 まあ、たまにはね。なーんて、これは作戦。
 お茶わんをわたすときに、お父さんの手にちょっと触れて、梅の花をゲットした。
 それからお母さんとは、てのひらをあわせて、大きさをくらべあって、菊の花を。
 今夜は三つも、ゲットできたってわけだ。

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