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5 三毛猫
しおりを挟む昼休みに校庭で、ドッジボールをすることになった。
親睦を深めようっていう、ジンサク先生の提案で、クラスメートで。
「恵梨、パス!」
先に外野になってしまった陸が、私にボールを投げる。
「まかせて!」
私、勉強よりも、ドッジボールのほうが好きなんだ。
大きく投げられたボールをキャッチして、素早く敵のコートに投げつける。
「きゃっ!」
当てた! ……と思ったら、それは相手チームの真希だった。
「んもうっ! 服、汚れちゃうじゃんっ!」
真希はぷりぷりして、外野にでた。また怒らせちゃったみたい……。
そうこうするうちに、チームの内野は次々にボールを当てられて、私と咲也くんのふたりだけになってしまった。
咲也くんは、すばしっこく逃げまわるだけでボールをキャッチしないから、戦力外。
ここは私が! って思っていたら、咲也くんに真希のボールが命中しちゃった。
「やった! 咲也くーん、ごめんね?」
きゃぴきゃぴした真希が、咲也くんに手をふる。
咲也くんは困ったように笑って、外野にでた。
よーし、負けていられないっ! 最後のひとりとなった私は、敵のボールをキャッチして、コートの中の相手チームに当てた。
外野にいる陸も、奏子ちゃんも、ほかの子も、敵にボールを当てて、コートにもどってきた。
そして……やったね、勝利! まだ顔と名前の一致しない子たちと、喜びあう。
真希が、くやしそうに私を見ているのがわかったけど、笑いかけてみた。真希は、ぷいっと、そっぽを向いてしまった。
ドッジボールが終わって、奏子ちゃんと教室にもどろうとしたら。
「おつかれさま、恵梨ちゃん。運動神経、すごいね」
咲也くんに呼び止められた。思わず、あたりをきょろきょろ見わたす。
……セーフ。真希の姿はもう、見えない。
そういえばさっき、授業前に髪の毛を直すって、急いでいたっけ。おつきのふたりも、一緒にいったみたい。
「ね、恵梨ちゃん。今日もあの公園、散歩にいく?」
「うん、いくよ」
「じゃ、僕もいくね」
「え?」
「それじゃ、またあとで。待ってるから」
「わ、ちょっと!」
そうして咲也くんは男子数人と、校舎に入っていった。やけにカッコいいほほ笑みをふりまいて。
「恵梨ちゃん、すごいね。転校生ともう、あいびきなんだね」
顔を赤らめて、奏子ちゃんが言う。
「あいびきって、お肉じゃないんだから! やだ、ちがうよ!」
「でも、待ってるから、って」
たしかにそう言った。ほほ笑みの王子、咲也くんは。
「そうだ! ねえ、奏子ちゃんも一緒にいく?」
三人なら、だれかに見られてもだいじょうぶだよね。
あ、けどそしたら、ヒミツの話はできないのか……。
「いってもいいの? でも、ごめん。わたしは今日、ピアノのレッスンがあるの」
「ピアノ?」
「そうなの。幼稚園のときからずっと習ってるの。音大にいきたいんだ、わたし」
「ピアノで音楽大学? すごいね! 今からもう、大学のこと考えてるなんて」
「べつにすごくないよー。わたしがやりたいことって、それくらいだし」
「すごいよ! 私なんか、やりたいこと、なーんにも見つけてないのに」
「でも、それって、可能性がいっぱいあるってことだよ」
「いっぱい、かなあ」
「そうだよ、いっぱい。いろんな方向を考えられるんだよ。いいなあ、希望いっぱいだよ、
それって。恵梨ちゃんの道は、未知なんだね」
ミチワミチ……?
なんだか奏子ちゃんて、ふんわりしているけれど、言葉もいっぱい知っていて、すごくオトナに思えてきた。
奏子ちゃんなら、友だちだよね。心が通じあっているよね。
もしかしたら、今がチャンス?
だけど、心の花を集めるには、相手にさわらなくちゃならない。どうやって奏子ちゃんをさわったらいいのか、わからない。
あー、やっぱり、むずかしいかも!
「ねえ、恵梨ちゃんて部活、決めた?」
考えていると、奏子ちゃんにきかれた。
「うーん、春海さんとおんなじのがいいな。たぶん、ダンスにするかなあ」
「あのステキな生徒会長? あんなにキレイな髪、シャンプーなに使ってるんだろうね」
「え、そこ? 奏子ちゃん、女子力高いね」
私が言えば、奏子ちゃんははずかしそうに笑った。
「そんなことないよー。わたし天然パーマでね、だからかくそうと三つ編みにしてるの」
「そうなんだ。三つ編み、にあうからいいじゃん」
「ありがとう。それで生徒会長は、ダンス部なの?」
「うん。小さいころからバレエならっててね、踊りがうまいんだよ」
お母さん同士が知り合いだから、情報がよく入ってくるんだ。
「そうなんだね……あ。三毛猫が歩いてくる」
奏子ちゃんが、猫へ近寄っていく。
三色のぶちの猫は、逃げずに立ち止まった。私のことを見て、ニャア~と鳴く。
『お、あの三毛猫、恵梨になんか言ってるぞ。えーと……〝昨日はうちの子を助けてくれて、どうもありがとうね〟だってさ』
それまで眠っていた、ヘアピンのブルーベルの言葉が、頭の中にはっきり聞こえた。
そっか、昨日の朝、私が助けた子猫のお母さんなんだ。
『ん? なになに……〝お礼に、教えてあげる。その子の飼い猫は、もうじき天国へ旅立つよ〟だってさ』
「えっ!?」
思わず大声を発してしまった私は、あわてて口を両手でおさえた。
「どうしたの?」
奏子ちゃんが、こっちをふり返って、きょとんとしている。
「え、ううん、なんでもないよ。かわいいね」
「かわいいよねえ」
すぐに三毛猫に向き直って、奏子ちゃんは、なでなでしはじめた。三毛猫は気持ちよさそうに、何度もニャアンと鳴いている。
『グレーの、おじいちゃん猫だって、そいつは言ってるぞ。奏子の飼い猫は、そういう猫だってさ』
うそだ……そんなことあるはずない。あ、そっか。ブルーベルにほんとうに動物の声が聞こえているなら、奏子ちゃんが猫を飼っているかどうかで、わかるよね。
「あのさ」
猫をかわいがる奏子ちゃんのうしろから、声をかけてみる。
「奏子ちゃんのうち、猫、飼ってる?」
「うん、飼ってるよ。グレーの猫。わたし、猫が大好きなんだあ」
……ほんとうなんだ。
この猫の言っていることも、ブルーベルに動物の言葉がわかることも。
ってことは、奏子ちゃんの猫はもうすぐ……?
だったら、なにか言ってあげないと。
「奏子ちゃん! おじいちゃん猫、おだいじにしてね」
「……え? うん、ありがとう」
「いこっか」
「……うん!」
それから私たちは、曲がり角で手をふって別れた。
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