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18 妖精は、いる?
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帰りがけ、ユーリはガーデンに向かった。
タツキおじさんに、さっきのお礼が言いたかったのだ。
ブルースターでの星読み見習いとして、ガーデンのことをもっと知っておきたくもあった。
昨日、おばあさんにきかれたみたいに、お客さんが見たいと思う植物のところに、案内できたらどんなにいいだろう。
カルシャの言葉を借りれば、ガーデンを知りつくしている人の占い結果のほうが、知らない人の言うことよりも、聞きたくなると思うからだ。
小道を歩いていくと、クローバーのあたりについた。
サーシャがしゃがみこんで、クローバーの妖精と話をしていた場所だ。
花が咲きはじめたガーデンの中で、緑のクローバーはとても目立たないものだった。
それでもサーシャは、たいせつにしているのだ。
ユーリはクローバーの前にしゃがみこんだ。
(ええっと、クローバーの妖精さん……あたしの前にも、姿を見せて)
緑の小さな葉っぱを見つめて、何度も心でとなえた。会えたら、妖精にお礼が言いたかった。
妖精はほんとうにいて、ブナの木にあのシリウスがかくれていると、教えてくれたにちがいないから。
けれど、妖精はあらわれてはくれない。
(妖精さん、あなたからあたしは見える? あのね、どうもありがとう)
「やあ、ユーリ」
とつぜん、うしろから声をかけられた。
「妖精さん!?」
立ちあがってふり返ると、そこにいたのは作業服を着た、タツキおじさんだった。大きなスコップを持っている。
「あ……」
「なんだい? 残念そうな顔をして」
がっかりしたのが、表情にでてしまったようだ。妖精だと思ったら、タツキおじさんだったのだから、ムリもない。
「ごめんなさい……あの、さっきはどうもありがとうございました!」
ぺこり、おじぎをする。
「いや、いいんだよ。きみは星読み見習いだったんだね?」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
ユーリは思いきって、きいてみることにした。
「タツキおじさんはこのガーデンで、妖精に会ったこと、ありますか?」
「妖精だって?」
ユーリのことを真顔で見つめたタツキおじさんは、ほほ笑みを受かべると、首を左右にふった。
「まさか、会ったことないよ」
ガーデナーをしているタツキおじさんなら、見たことがあると思ったけれど、まるでちがった。
「それじゃあ……いると思いますか?」
「さあてね、どうなんだろう。見えないからいないって決めつけるのは、ロマンがないと思うよ。といっても、もしも妖精が見えても、いちいち気にしてたら、おれの仕事はできないね」
「どうしてですか?」
「だってさ、ハーブティーのためのハーブを、つんだりするんだよ? そのたびに、なにするんだってハーブの妖精に怒られてたら、仕事にならんよ」
「あ! それもそっか」
それならサーシャはどうだろうと、ユーリは考えた。妖精と話しながら、お願いをして、分けてもらっているのかもしれない。
「おれはともかく、ブルースターの五人きょうだいは、みんな変わってるからなあ。見える子がいたとしても、不思議じゃないね」
「え?」
「いや、たとえばの話だよ。みんなそろって、ミステリアスなんだ。カルシャはもちろん、わかるだろ?」
「はい、星読みですから」
十二星座のアイテムを使って、『星読みの書』にホロスコープをえがきだしたり、シリウスを網の中に入れたりしたのは、まるで魔法のようだった。
タツキおじさんはうなずくと、つづけた。
「都会にいった男の子は、小さなころから手先が器用で、服のデザインからつくりあげることまで、すばらしくじょうずにやってのけた」
それはサーシャが妖精を見えることとは、ちょっとちがうようだ。だけど、ユーリはタツキおじさんの言葉を、熱心に聞いた。
「村にいって畑をやってる男の子は、小さいうちから作物を育てるのがうまかった。雨や風に負けない、病気になりにくい、そんな野菜の育てかたを経験から学んで、みごとに自分のものにしているんだ」
「それって、ミステリアスな、不思議な力なんですか?」
「おれにはそう思えるよ。それはつまり、なにかをやるセンス。そして個性。それから、なしとげる努力。このおれだって、ガーデンを美しく見せる力がある」
そのとおりだ、ユーリはおどろいた。つまり、妖精を見られるというのも、サーシャならではのセンスであって、個性なのだ。
「でもって、末っ子のサーシャ。あの子はよくわからん」
「わからないって?」
「じーっと花を見ていたかと思えば、きゅうに笑ったり、泣きだしたり。きっとなにか、力があるんだろうな。おれはきいたりしないがね」
その言葉をきいて、ユーリはタツキおじさんが、とてもいい大人だと思った。
気味悪がったりしないで、ちゃんとサーシャを受け入れている。
「あの子はさびしい思いをしてきた。親がわりのカルシャに、小さいころからめんどうを見てもらっていたとはいえ、親の愛情を知らないからな」
またしても、ユーリはサーシャが気の毒に思った。
本人は、同情なんてしてほしくないと言うだろう。
それでもやっぱり、サーシャのさびしさを思うと、胸がとてもしくしくしてくる。
「タツキおじさん、ありがとうございます」
「なんだい?」
「いろいろ教えてくれて……それからもうひとつ、教えてもらいたいの」
「もうひとつ?」
「このガーデンに、スズランは咲きますか?」
「ああ、咲くよ。まだ芽をだしていなかったと思うがね。おいで、こっちだ」
そうしてユーリは、タツキおじさんにスズランの場所を教わった。
(ここに花が咲くころ、またあのおばあさんに会えたらいいな)
スズランが眠る場所で、そう思うのだった。
ミルばあとは、まったくちがうタイプのおばあさんのようだ。
だけどなぜだか、また会えたらいい、心から思っていた。
タツキおじさんに、さっきのお礼が言いたかったのだ。
ブルースターでの星読み見習いとして、ガーデンのことをもっと知っておきたくもあった。
昨日、おばあさんにきかれたみたいに、お客さんが見たいと思う植物のところに、案内できたらどんなにいいだろう。
カルシャの言葉を借りれば、ガーデンを知りつくしている人の占い結果のほうが、知らない人の言うことよりも、聞きたくなると思うからだ。
小道を歩いていくと、クローバーのあたりについた。
サーシャがしゃがみこんで、クローバーの妖精と話をしていた場所だ。
花が咲きはじめたガーデンの中で、緑のクローバーはとても目立たないものだった。
それでもサーシャは、たいせつにしているのだ。
ユーリはクローバーの前にしゃがみこんだ。
(ええっと、クローバーの妖精さん……あたしの前にも、姿を見せて)
緑の小さな葉っぱを見つめて、何度も心でとなえた。会えたら、妖精にお礼が言いたかった。
妖精はほんとうにいて、ブナの木にあのシリウスがかくれていると、教えてくれたにちがいないから。
けれど、妖精はあらわれてはくれない。
(妖精さん、あなたからあたしは見える? あのね、どうもありがとう)
「やあ、ユーリ」
とつぜん、うしろから声をかけられた。
「妖精さん!?」
立ちあがってふり返ると、そこにいたのは作業服を着た、タツキおじさんだった。大きなスコップを持っている。
「あ……」
「なんだい? 残念そうな顔をして」
がっかりしたのが、表情にでてしまったようだ。妖精だと思ったら、タツキおじさんだったのだから、ムリもない。
「ごめんなさい……あの、さっきはどうもありがとうございました!」
ぺこり、おじぎをする。
「いや、いいんだよ。きみは星読み見習いだったんだね?」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
ユーリは思いきって、きいてみることにした。
「タツキおじさんはこのガーデンで、妖精に会ったこと、ありますか?」
「妖精だって?」
ユーリのことを真顔で見つめたタツキおじさんは、ほほ笑みを受かべると、首を左右にふった。
「まさか、会ったことないよ」
ガーデナーをしているタツキおじさんなら、見たことがあると思ったけれど、まるでちがった。
「それじゃあ……いると思いますか?」
「さあてね、どうなんだろう。見えないからいないって決めつけるのは、ロマンがないと思うよ。といっても、もしも妖精が見えても、いちいち気にしてたら、おれの仕事はできないね」
「どうしてですか?」
「だってさ、ハーブティーのためのハーブを、つんだりするんだよ? そのたびに、なにするんだってハーブの妖精に怒られてたら、仕事にならんよ」
「あ! それもそっか」
それならサーシャはどうだろうと、ユーリは考えた。妖精と話しながら、お願いをして、分けてもらっているのかもしれない。
「おれはともかく、ブルースターの五人きょうだいは、みんな変わってるからなあ。見える子がいたとしても、不思議じゃないね」
「え?」
「いや、たとえばの話だよ。みんなそろって、ミステリアスなんだ。カルシャはもちろん、わかるだろ?」
「はい、星読みですから」
十二星座のアイテムを使って、『星読みの書』にホロスコープをえがきだしたり、シリウスを網の中に入れたりしたのは、まるで魔法のようだった。
タツキおじさんはうなずくと、つづけた。
「都会にいった男の子は、小さなころから手先が器用で、服のデザインからつくりあげることまで、すばらしくじょうずにやってのけた」
それはサーシャが妖精を見えることとは、ちょっとちがうようだ。だけど、ユーリはタツキおじさんの言葉を、熱心に聞いた。
「村にいって畑をやってる男の子は、小さいうちから作物を育てるのがうまかった。雨や風に負けない、病気になりにくい、そんな野菜の育てかたを経験から学んで、みごとに自分のものにしているんだ」
「それって、ミステリアスな、不思議な力なんですか?」
「おれにはそう思えるよ。それはつまり、なにかをやるセンス。そして個性。それから、なしとげる努力。このおれだって、ガーデンを美しく見せる力がある」
そのとおりだ、ユーリはおどろいた。つまり、妖精を見られるというのも、サーシャならではのセンスであって、個性なのだ。
「でもって、末っ子のサーシャ。あの子はよくわからん」
「わからないって?」
「じーっと花を見ていたかと思えば、きゅうに笑ったり、泣きだしたり。きっとなにか、力があるんだろうな。おれはきいたりしないがね」
その言葉をきいて、ユーリはタツキおじさんが、とてもいい大人だと思った。
気味悪がったりしないで、ちゃんとサーシャを受け入れている。
「あの子はさびしい思いをしてきた。親がわりのカルシャに、小さいころからめんどうを見てもらっていたとはいえ、親の愛情を知らないからな」
またしても、ユーリはサーシャが気の毒に思った。
本人は、同情なんてしてほしくないと言うだろう。
それでもやっぱり、サーシャのさびしさを思うと、胸がとてもしくしくしてくる。
「タツキおじさん、ありがとうございます」
「なんだい?」
「いろいろ教えてくれて……それからもうひとつ、教えてもらいたいの」
「もうひとつ?」
「このガーデンに、スズランは咲きますか?」
「ああ、咲くよ。まだ芽をだしていなかったと思うがね。おいで、こっちだ」
そうしてユーリは、タツキおじさんにスズランの場所を教わった。
(ここに花が咲くころ、またあのおばあさんに会えたらいいな)
スズランが眠る場所で、そう思うのだった。
ミルばあとは、まったくちがうタイプのおばあさんのようだ。
だけどなぜだか、また会えたらいい、心から思っていた。
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