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3 星読み
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ふいに、店のドアがひらいた。
「ただいま」
すらっとした背丈の、女の人が入ってきた。
ストレートの金色の髪が、あごのあたりで切りそろえられている。
バリッとしたお姉さん、といった感じだ。
「あら、お客さま? 今日はあいにく、お店はお休みなんですよ」
ちょっと低めの、よく通る声の女の人が、ユーリのすぐそばに来た。
彼女のひとみもまた、ブラウントパーズ色だった。そのひとみが、うれしそうに輝く。
「もしかしてあなた……ユーリ?」
「はい! フラワータウンのユーリです!」
立ちあがって、ぺこりとおじぎをした。サーシャとふたりきりの息のつまる時間も、これでおわりのようだ。
「よく来たわね。ミルが元気だったころに、話は聞いているわ。私はジュピターのカルシャ。星読みよ」
「あなたがカルシャさん! どうぞよろしくお願いします!」
ぺこり、また、おじぎをした。
「カルシャでいいわ。よろしく」
手がさしだされる。その手をユーリがにぎると、がしっと、カルシャは力をこめた。
「ようこそ、ブルースターへ」
すずやかにほほ笑んだカルシャは、そっと手を離す。快く受け入れられ、握手ができたことに、ユーリは大満足だ。
「このカフェは、ガーデンを見にきたお客さんが、ひとやすみにくるところよ」
そういえば、レジのそばにはおみやげコーナーがあって、ハーブティーやポプリが売られている。
「もちろん、占いもやっているわ。このお店、ブルースターはね、占いカフェなの」
「あの……ブルースターって、〝青い星〟っていう意味ですか?」
高鳴る胸をおさえ、きいてみる。
「そうね。そして、花の名前でもあるの」
「お花?」
「ほら、あれよ」
ユーリのわきのカベを指さす。かざられた絵は、青い星形の花だった。その葉はとても細長い、ハートの形をしている。
「花言葉はね、〝信じあう心〟」
「信じあう心……ステキ!」
両手をあわせて、ブルースターの花の絵を見つめた。
「あたし、このお花が好きになっちゃいました」
「そう? うちのガーデンで、夏が近づくころ咲くのよ」
「わあ、見てみたい!」
はしゃいだ声がでたところで、サーシャのせきばらいが聞こえた。
「ユーリはここへ遊びにきたの? だったらカルシャはいそがしいんだから、帰ってよね」
やさしい声なのに、言葉はおこっている。
「ごめんなさい。あたし、おばあちゃんに、カルシャをたずねるように言われて……」
きらわれたくなくて、とっさにあやまる。できればサーシャと仲よくなりたいと思っているからだ。
あわてて手紙をカルシャに見せる。
「どうしてミルばあは、カルシャのところへって?」
カルシャはユーリのそばの椅子にすわると、手紙を読んで暗い顔をした。
「あなたのおばあさんが亡くなって、とてもかなしいわ。残念よ。私は科学者のミルと、よく星の話をしたわ。彼女はよく、その椅子にすわっていたの」
ユーリのわきの椅子を、カルシャはながめた。この椅子に、おばあちゃんが……。時を超えて、ここでミルばあにふたたび会えたような、不思議な感じがする。
「それでね、私、ミルばあにたのまれごとをされていたの。孫娘のユーリがたずねてきたら、星読みの仕事を見せてあげてって」
手紙を返されたユーリは、たいせつにたたんで、リュックサックのポケットにしまった。
「あの……星読みって、どんなことをするんですか?」
心なしか、声がふるえた。そんなユーリに、カルシャがやさしくこたえる。
「星や星座のことを学んで、星読みをするのよ。つまり、占い師」
ほほ笑んだカルシャは、立ちあがった。
「どういうものか、実際に見てもらうわ。来て」
カフェの奥にカルシャが向かう。あとにつづくと、そこは八角形の建物の部分で、サンルームのようにガラス窓にかこまれていた。窓からの光がたっぷりさしこんで、とても明るい部屋だ。
カルシャは部屋の青いドアをしめると、窓を背に、すとんと椅子に腰をおろした。部屋の真ん中におかれた、古めかしい机を前にしている。どうやらこの部屋は、占い専用のようだった。
机の上には、時計の文字盤に似たものが刻まれた、ガラスの板がおいてある。
――トントン。
青いドアがノックされた。
「カルシャ! わたしとシジュウカラ林へ、お散歩にいく約束は?」
泣きそうなサーシャの声が、ドアの向こうから聞こえる。カルシャは、やれやれといった感じで、ドアごしに返事をした。
「今日って、約束したわけじゃないでしょ? そのうちいきましょう、三人で」
「三人?」
大きな声でサーシャがきき返すと、カルシャはこたえた。
「サーシャとユーリと私の、三人よ」
「もうっ! わたしはカルシャとふたりでいきたいのにっ!」
おこった声のサーシャが、走っていく足音がする。
「あ、待って、サーシャ!」
ドアをあけようしたとき、「いいのよ」、カルシャに止められた。
「ミルばあの遺言がたいせつだわ。サーシャの顔色をうかがってはいられないの」
そう言ってはくれても、ユーリは思う。
(あたしのことを、サーシャは受け入れてくれないんだ……)
さびしい気持ちで、心がいっぱいになってしまう。
新しいところになじもうとしても、それをつっぱねる人がいると、どうにも気持ちがくじけてしまうものだ。
だけど、気を取り直してみる。
(星読みのお仕事をちゃんと見よう。ミルばあはあたしに、なにかを伝えたかったのかもしれない)
「ただいま」
すらっとした背丈の、女の人が入ってきた。
ストレートの金色の髪が、あごのあたりで切りそろえられている。
バリッとしたお姉さん、といった感じだ。
「あら、お客さま? 今日はあいにく、お店はお休みなんですよ」
ちょっと低めの、よく通る声の女の人が、ユーリのすぐそばに来た。
彼女のひとみもまた、ブラウントパーズ色だった。そのひとみが、うれしそうに輝く。
「もしかしてあなた……ユーリ?」
「はい! フラワータウンのユーリです!」
立ちあがって、ぺこりとおじぎをした。サーシャとふたりきりの息のつまる時間も、これでおわりのようだ。
「よく来たわね。ミルが元気だったころに、話は聞いているわ。私はジュピターのカルシャ。星読みよ」
「あなたがカルシャさん! どうぞよろしくお願いします!」
ぺこり、また、おじぎをした。
「カルシャでいいわ。よろしく」
手がさしだされる。その手をユーリがにぎると、がしっと、カルシャは力をこめた。
「ようこそ、ブルースターへ」
すずやかにほほ笑んだカルシャは、そっと手を離す。快く受け入れられ、握手ができたことに、ユーリは大満足だ。
「このカフェは、ガーデンを見にきたお客さんが、ひとやすみにくるところよ」
そういえば、レジのそばにはおみやげコーナーがあって、ハーブティーやポプリが売られている。
「もちろん、占いもやっているわ。このお店、ブルースターはね、占いカフェなの」
「あの……ブルースターって、〝青い星〟っていう意味ですか?」
高鳴る胸をおさえ、きいてみる。
「そうね。そして、花の名前でもあるの」
「お花?」
「ほら、あれよ」
ユーリのわきのカベを指さす。かざられた絵は、青い星形の花だった。その葉はとても細長い、ハートの形をしている。
「花言葉はね、〝信じあう心〟」
「信じあう心……ステキ!」
両手をあわせて、ブルースターの花の絵を見つめた。
「あたし、このお花が好きになっちゃいました」
「そう? うちのガーデンで、夏が近づくころ咲くのよ」
「わあ、見てみたい!」
はしゃいだ声がでたところで、サーシャのせきばらいが聞こえた。
「ユーリはここへ遊びにきたの? だったらカルシャはいそがしいんだから、帰ってよね」
やさしい声なのに、言葉はおこっている。
「ごめんなさい。あたし、おばあちゃんに、カルシャをたずねるように言われて……」
きらわれたくなくて、とっさにあやまる。できればサーシャと仲よくなりたいと思っているからだ。
あわてて手紙をカルシャに見せる。
「どうしてミルばあは、カルシャのところへって?」
カルシャはユーリのそばの椅子にすわると、手紙を読んで暗い顔をした。
「あなたのおばあさんが亡くなって、とてもかなしいわ。残念よ。私は科学者のミルと、よく星の話をしたわ。彼女はよく、その椅子にすわっていたの」
ユーリのわきの椅子を、カルシャはながめた。この椅子に、おばあちゃんが……。時を超えて、ここでミルばあにふたたび会えたような、不思議な感じがする。
「それでね、私、ミルばあにたのまれごとをされていたの。孫娘のユーリがたずねてきたら、星読みの仕事を見せてあげてって」
手紙を返されたユーリは、たいせつにたたんで、リュックサックのポケットにしまった。
「あの……星読みって、どんなことをするんですか?」
心なしか、声がふるえた。そんなユーリに、カルシャがやさしくこたえる。
「星や星座のことを学んで、星読みをするのよ。つまり、占い師」
ほほ笑んだカルシャは、立ちあがった。
「どういうものか、実際に見てもらうわ。来て」
カフェの奥にカルシャが向かう。あとにつづくと、そこは八角形の建物の部分で、サンルームのようにガラス窓にかこまれていた。窓からの光がたっぷりさしこんで、とても明るい部屋だ。
カルシャは部屋の青いドアをしめると、窓を背に、すとんと椅子に腰をおろした。部屋の真ん中におかれた、古めかしい机を前にしている。どうやらこの部屋は、占い専用のようだった。
机の上には、時計の文字盤に似たものが刻まれた、ガラスの板がおいてある。
――トントン。
青いドアがノックされた。
「カルシャ! わたしとシジュウカラ林へ、お散歩にいく約束は?」
泣きそうなサーシャの声が、ドアの向こうから聞こえる。カルシャは、やれやれといった感じで、ドアごしに返事をした。
「今日って、約束したわけじゃないでしょ? そのうちいきましょう、三人で」
「三人?」
大きな声でサーシャがきき返すと、カルシャはこたえた。
「サーシャとユーリと私の、三人よ」
「もうっ! わたしはカルシャとふたりでいきたいのにっ!」
おこった声のサーシャが、走っていく足音がする。
「あ、待って、サーシャ!」
ドアをあけようしたとき、「いいのよ」、カルシャに止められた。
「ミルばあの遺言がたいせつだわ。サーシャの顔色をうかがってはいられないの」
そう言ってはくれても、ユーリは思う。
(あたしのことを、サーシャは受け入れてくれないんだ……)
さびしい気持ちで、心がいっぱいになってしまう。
新しいところになじもうとしても、それをつっぱねる人がいると、どうにも気持ちがくじけてしまうものだ。
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