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大堀康太
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人生でやり直せる瞬間があったらと思う
高校2年
リクの家に泊まりに行った日
カズにあった初めての日
僕の人生を変えてしまう日
どうやり直したいのかはわからい
今の僕があるのはあの日があるからなのに
もしあの日に戻るならリクの家には行かない
背が高く肩幅が広い 制服のネクタイをゆるめてポテチを食べる男に僕は釘付けになった
なんてかっこいい子なんだろうと思って見惚れてたらリクが僕の方にペットボトルを投げてきた
「こいつカズ 塾一緒でコンビニで買いもんしてたからノリでツレのとこ行く?って誘ったらついてきた」
雅也が俺に説明する
「カズですよろしく」
「あっ康太です 大堀康太」
そう言って手を出した
「え?握手?する?」
リクが茶化すように僕の手をパチンと叩いた
なんだよそれ
僕は笑ったけどほんとは笑いたくなかった
そんな僕を見て払われた手を握ってくれたカズの手があったかくて心にスッと光が灯った
次の日リクの姉ちゃんのモカとその友達と遊びに行くことになった
高校生が大人数で遊ぶとなったらラウドワンと決まっている
僕はカズに近づきたかったけどかおりという子から逃れらなくて散々だった
帰り際みんなで一応連絡先を交換しようというめでたいノリでカズの携帯番号をゲットした
今日は話せなくて残念だったよ
また遊びたいよ
すぐにメッセージを送る
またな
短いメッセージが返ってきた時は知らずにニヤけてた
それからほぼ毎日おはようのメッセージを送った
返事がなくても意味がなくても別に良かった
つながっているということ
それだけで満足できる
あまりにしつこいからかカズからは月に1、2回短いおはようが来るだけ
康太 服好き?
好き 見るのも着るのもデザインするのも好き
珍しくカズからメッセージがあってすぐ返信
授業なんて聞いてられない
明日古着見に行くけど一緒に行く?
行く
古着なんて全く興味なし
誰かが来たお下がりを買うなんて全く信じられない
でも服は好き
次の日朝からソワソワしながら服を選ぶ
僕はカズに見せるためにスケッチしたデザイン画を鞄に詰めた
昔から服のデザインを考えるのが好きだった
リカちゃん人形のドレスやバービーの彼氏のケンの服 人形遊びはしなかったけどこの人形たちにはどんな服が似合うだろうとデザインしてた
カズの私服 カッコいい
古着っぽいTシャツと色落ちしたジーンズ
キャップと大きめの肩掛けバッグ
センスの塊だ カッコ良すぎる
僕ははしゃいだ
「お前もかわいいよ」
そう言って照れ隠しのように僕の髪をクチャとする
古着屋はいとこらしい
街であったら絶対目を合わせられない風貌の男で僕は次々と服を見ながらそのいとこと話すカズを遠巻きに見てる
「古着には興味ない?」
店主が僕を手招きしてる
「すいません 服は好きなんだけど」
僕があまりにも緊張して抱えてる鞄を見て
「何入ってるの?」つて店主
「僕が好きに書いてるスケッチ カズに見てもらおうと思って」
「どれどれ?」
身を乗り出したいとこが僕のスケッチブックのページをめくる
「いいじゃん 才能あるよ」
「そうかな?好きで描いてるだけ」
「何着か作ってみたいな」
「え?僕のデザイン画を服にしてくれるの?」
「こう見えて一応服飾の専門でてるからそんな完璧求めないなら作るよ」
思ってもない展開だった
「よかったな 一着は俺にもくれよな」
カズが笑う
その日から毎日一着はデザインした
カズのいとこはマモルさんという名前らしいけどマルでいいよとカズが言う
マルさんは1週間ぐらいで1着仕上げてくれた
細かい注文も完璧にしてくれて最高の出来だった
自分が着たかったがその1号はカズにあげた
次の2号はマルさんが
3号でようやく僕のものになった
趣味みたいなものだから材料費も人件費もいらないとマルさんが言ってくれたから3着だけで終わりにしようと話した
3着とも違うデザインで3人で考えたkooブランド?マークの刺繍タグとマジックで1.2.3と番号をふった
僕の職業の原点となる3着
その3着が完成してからパタリとカズから連絡が来なくなった
僕のメッセージは既読もつかない
なんで?なんで?
高3になっても勉強の息抜きでたまにマルさんの店に顔を出した
ほんとは偶然にカズに会えないかと思ってた
「カズ今日くるよ」
心の声が聞こえたの?僕が驚いてマルさんを見てるとカズが店に入ってきた
久しぶりだな
そうだね
無言で僕たちは顔を見合わせる
僕はなぜかとても切なくてカズの手に触れた
「悪いな 俺そういうの苦手」
握り返して欲しかったわけじゃないのに
久しぶりに会えて気持ちが昂っただけ
もしかして僕はカズの事…今思えば誰かを好きだという感情を初めて知った
初恋だった
そんなはずないと否定する程苦しくて泣きそうになる
やんわりと僕は拒絶されたんだ
もうカズには会えない
カズ以外の男の子を好きになったことはない 恋愛対象は女の子
大学生活はそれなり充実してた
友達も出来たし彼女もいたりした
やりたい勉強もしっかり出来たし4年はあっという間だった
大学卒業したら自分のブランドを立ち上げる
それはカズに会えなくなったあの日に決めた事だった
大学在学中にファンド会社の父親からレクチャーされた株式投資でそこそこの利益を出した
僕の服を作れるのはマルさんしかいないと思ってたけどマルさんに会うのは少し怖かった
いやマルさんに会いに行ってカズに会うかもしれないと思うと怖い
でもそんな事言ってると一歩も会社が進まない
意を決して僕は久しぶりにkoo3に袖を通した
「こんにちは マルさんいますか?」
「いらっしゃいませ」
カズとマルさんと僕の3人でkooを着て撮った写真が飾ってある
店は4年たってもそのままだったけど店の奥から出てきたのはマルさんじゃなかった
「その服!その服伝説のkooじやないですか? 世界に3着しかないっていう!」
店員さんの興奮が嬉しい
僕は服の裾からkoo3というタグを見せて笑った
「写真撮っていいですか?」
「いやそんなことよりマルさんはどうしたんですか?」
「買い付けでタイなんです 最低でも1ヶ月ぐらい下手すると半年は帰ってこないと思いますよ」
「そんなにかかるんですか?」
「奥さんがあっちにいるんですよ」
衝撃だった マルさんに奥さん
「康太が会いたがってるって連絡欲しいって伝えてもらえますか?」
「康太ってkooのデザイナーさん?」
飾られた写真と僕を見比べてさらに興奮してる
「写真写真撮って!」
これはタイに行く事になるなと覚悟する
タイのバンコク 空気は重かった
空はいまにも雨が降りそうな厚い雲
大きな車で迎えにきてくれたマルさんは髭を生やし日焼けしてたくましくなった気がする
「わざわざ来るなんて何事?」
車の中には小さな子供がいて僕をジロジロみている
「マルさん奥さんいるんだって?この子マルさんの子?」
「そうだよ あと6人いるよ」
「7人も子供いるの?」
ついた家はありえないくらいデカくてゴージャス それよりもありえないぐらいの美人がマルさんの奥さんだった
7人の子供も美形揃いで母親を取り巻く小人みたいにかわいい
マルさんは決して王子様ではないけどね
僕とマルさんは僕に用意してくれたゲストルームで話を始めた
「ブランド立ち上げようと思ってる
僕の服を作ってくれるのはマルさんしかいないなと思って」
「そりゃいい
縫製全般のスタッフは俺の知り合いに頼むから7,8人ぐらい 俺はいいけど他のスタッフは無給じゃ困るぞ
どれぐらいの規模にするのかはわからないが全て違うデザインで最初20着ぐらい作って限定で売る
1着五万以上 販売は通販
お前が用意するのはミシンを最低でも5台置ける作業部屋と通販サイトを作る事
何より20着分のデザイン」
「え?1着5万なんて売れる気がしない
というか何?僕は立ち上げるって話今初めて話すよね?」
「カズがな 康太がきっと服屋やるからってその時絶対力になってくれって俺にアイディアを授けてくれた
それに名だたるブランドの服の値段知ってるか?kooは5万でも充分売れる それだけの価値がある服作るから
俺が店で着てる時どんだけどこで売ってるのか?売って欲しいって言われたか
20着なんてすぐに捌ける」
「ありがとう」
「カズに会えたらお礼言っとけ」
「マルさんもあってないの?」
「あいつ軽く行方不明者なんだよはははは」
それって笑い事じゃない
僕は一泊もせずに日本に帰った
初めから僕が会いに行くって言った時点できっとブランドの事だと思ってたはずでしょ?じゃ今の話ここに来なくても話せたよね?ってマルさんに言ったら康太の本気試すためって答えられた
「本気じゃないとここまでこないだろ?
ここまでこない男に俺が連れて行くスタッフの人生賭けられないから」
それでこそマルさん 美人の奥さんとかわいい子供7人がいる男はどんな時でもかっこいい
日本に帰ってマルさんの言われた通り作業部屋とミシン 大学時代の友達にホームページ作ってもらって通販サイトをつくる
マルさんに念を押されたのは念書を作れという事
就業規則みたいな?とにかく偽物が出回らないようにデザインの流出がないようにスタッフ全員に署名をもらう事
デザイン流出 偽物を作ったときは賠償と刑事罰
そこまで?と思ったけれどそれもカズの指示だって言われたら反論はない
足りないお金は父親から
僕のブランドは10月には通販サイトでオープンした
世界に一つの貴方の服 koo3
3を入れたのは始まりの3人という意味と僕が着ているのがkoo3だって事で3を入れた
驚いたのはオープンして30分で20着が即完した事だ
単純に計算して30分で100万を売り上げた
なるべく在庫は持たないとマルさんは言ったけどオープン前は金を借りた父親のプレッシャーで出来るだけ作れるだけの在庫は確保していた
次の日からフル稼働でブランドは徐々に育っていく
I年後にはいくらでもいいからというオーダーで受注販売も始めてブランドは安泰になった
僕はみんなの給料が払えて借金の返済ができて僕の服を喜んでくれる人がいるって事だけでよかった
綺麗事じゃなく本当にそう思っていたのに3年後サーバーがダウンする程の大波がやってきた
最初は何が起こったかわからない
とにかく全てが破裂したように電話は鳴り響き サーバーの復旧は出来ず
その対応で何日も眠れなかった
原因は伝説のBlue Beeというバンドのボーカルのπという人がkoo3の服を着てインスタを上げたという事だった
僕にはそのインスタに映るπという人より隣の人物に心が締め付けられた
顔は写ってないが絶対カズだと確信があった
友達のかっこいい服を拝借 koo3
英語でそう綴られてる
厳密にいうとその服はkoo1だけど
すぐにπという人に逢えるようにいろんな人がいろんなツテを使って動いたけれどバンドが解散しているし所在もはっきりしない人だった
だから余計に関心を持たれてkoo3が注目されたようだった
カズが僕のブランドを大きくしてくれた
いやカズがいなかったらブランドも存在していない
そこからブランドは大きなうねりに揉みくちゃにされる
出資したい工場を建てて大きくしたい
色んな人が色んなあやしさで近づいて来たけどマルさんが全てノーと言った
ただでさえ偽物が出ているのにブランドの把握が出来なくなるという答えだった
父親はブランドに偽物はつきものだし多売は悪い事じゃないと目先の欲をかいたけど僕もマルさんに賛成してそこそこ広さのあるオフィスとミシンを10台 信用出来そうなスタッフ15人を追加しただけだった
だから通販サイトに服をあげれば即完
欲しい人がたまに出る服をオークションで買う
偽物を高値で買う人がいる
話題になる の繰り返し
騒動からI年後
スタッフが困惑してどうするかヒソヒソ話してる
何?
「あのπのインスタ以来かかって来てる電話なんですけど…πの隣に映っている人の連絡先が知りたいって」
インスタがあがった時そんな問い合わせも山程あった でも顔は映っていない 上半身Blue BeeのバンドTだけ
僕たちはすぐにカズだと気づいたけどこの写真を見てカズだと気づける人はそうそういないはず
「そんな困る事?知りませんでいいじゃん」
「それが 中学の時の同級生でどうしても連絡取りたいって」
「は?そんなの嘘じゃないの?」
「中学八奈見第1の真田って人ですよね?って」
電話の人物と直接会うと決まるとずっと逃げ出したい気分だった
でも無視しててもどうしても気になる
望月ハル
その彼女はそう言った
昔カズから言われた
「お前なんか俺の女友達に似てる ハルって言うんだ お前と気が合いそう」
カズから唯一聞いた女の子の名前
女友達ハル
そのハルに合う
期待と緊張
「お時間いただいてありがとうございます」
オフィスの応接室で会う事にした
「大丈夫です 今日は比較的時間に余裕がありますから」
僕のステイタスを見せつける
かわいいけど平凡な女の子いうありふれた第一印象 カズの事が無ければ引っ掛かりもしない
「早速ですけどカズを探しているんですか?」
「やっぱりπと写ってるのはゆっきーなんですね」
「ゆっきー?」
「すいません 真田くんなんですよね?」
「そうだと思います kooを宣伝してくれたのはカズだと確信してます 僕とあと1人聞いて分かりますかね?マルさんとでこのブランドが立ち上がったんです」
「マルさん?」
「カズのいとこの古着屋さんです」
「なんでカズだと思ったんですか?」
「写真に写ってるバンドTです このTシャツ世界に1枚なんです」
「Blue Beeは有名バンドですよね?世界に1枚ってどうしてですか?」
「私がこのTシャツに落書きしたからです」
そう言って携帯の画面を僕に見せる
グレーの色落ちしたTシャツ
前面に真っ青なハチ Blue Beeの赤文字
「ここ見て」
引き伸ばした肩の部分
ひらがなでぶるーびーと書かれているその横に下手くそなギターの絵
「これ私が書いたんです
このBlue Beeってバンド私も好きでこのTシャツ自慢されてほしいって言ったらダメって言われて隙見て落書きしたらほんとはあげるつもりだったけど世界に一つになったからあげられないって この写真見て絶対ゆっきーが自分を探せって言ってると思って πやバンドメンバーのインスタやXでD Mしまくったりしつこくkooに電話かけてやっと今日なんです
ゆっきーの連絡先わかりますか?」
そうかkooを有名にしたのはオマケだったんだ
ハルにだけ届けばいいと思ってこの写真をとったんだね
もしかしてその中に僕も含まれてる?
ハルと僕を繋ぐ為?そうなの?
「なんでカズの事ゆっきーって呼んでるの?」
高校2年
リクの家に泊まりに行った日
カズにあった初めての日
僕の人生を変えてしまう日
どうやり直したいのかはわからい
今の僕があるのはあの日があるからなのに
もしあの日に戻るならリクの家には行かない
背が高く肩幅が広い 制服のネクタイをゆるめてポテチを食べる男に僕は釘付けになった
なんてかっこいい子なんだろうと思って見惚れてたらリクが僕の方にペットボトルを投げてきた
「こいつカズ 塾一緒でコンビニで買いもんしてたからノリでツレのとこ行く?って誘ったらついてきた」
雅也が俺に説明する
「カズですよろしく」
「あっ康太です 大堀康太」
そう言って手を出した
「え?握手?する?」
リクが茶化すように僕の手をパチンと叩いた
なんだよそれ
僕は笑ったけどほんとは笑いたくなかった
そんな僕を見て払われた手を握ってくれたカズの手があったかくて心にスッと光が灯った
次の日リクの姉ちゃんのモカとその友達と遊びに行くことになった
高校生が大人数で遊ぶとなったらラウドワンと決まっている
僕はカズに近づきたかったけどかおりという子から逃れらなくて散々だった
帰り際みんなで一応連絡先を交換しようというめでたいノリでカズの携帯番号をゲットした
今日は話せなくて残念だったよ
また遊びたいよ
すぐにメッセージを送る
またな
短いメッセージが返ってきた時は知らずにニヤけてた
それからほぼ毎日おはようのメッセージを送った
返事がなくても意味がなくても別に良かった
つながっているということ
それだけで満足できる
あまりにしつこいからかカズからは月に1、2回短いおはようが来るだけ
康太 服好き?
好き 見るのも着るのもデザインするのも好き
珍しくカズからメッセージがあってすぐ返信
授業なんて聞いてられない
明日古着見に行くけど一緒に行く?
行く
古着なんて全く興味なし
誰かが来たお下がりを買うなんて全く信じられない
でも服は好き
次の日朝からソワソワしながら服を選ぶ
僕はカズに見せるためにスケッチしたデザイン画を鞄に詰めた
昔から服のデザインを考えるのが好きだった
リカちゃん人形のドレスやバービーの彼氏のケンの服 人形遊びはしなかったけどこの人形たちにはどんな服が似合うだろうとデザインしてた
カズの私服 カッコいい
古着っぽいTシャツと色落ちしたジーンズ
キャップと大きめの肩掛けバッグ
センスの塊だ カッコ良すぎる
僕ははしゃいだ
「お前もかわいいよ」
そう言って照れ隠しのように僕の髪をクチャとする
古着屋はいとこらしい
街であったら絶対目を合わせられない風貌の男で僕は次々と服を見ながらそのいとこと話すカズを遠巻きに見てる
「古着には興味ない?」
店主が僕を手招きしてる
「すいません 服は好きなんだけど」
僕があまりにも緊張して抱えてる鞄を見て
「何入ってるの?」つて店主
「僕が好きに書いてるスケッチ カズに見てもらおうと思って」
「どれどれ?」
身を乗り出したいとこが僕のスケッチブックのページをめくる
「いいじゃん 才能あるよ」
「そうかな?好きで描いてるだけ」
「何着か作ってみたいな」
「え?僕のデザイン画を服にしてくれるの?」
「こう見えて一応服飾の専門でてるからそんな完璧求めないなら作るよ」
思ってもない展開だった
「よかったな 一着は俺にもくれよな」
カズが笑う
その日から毎日一着はデザインした
カズのいとこはマモルさんという名前らしいけどマルでいいよとカズが言う
マルさんは1週間ぐらいで1着仕上げてくれた
細かい注文も完璧にしてくれて最高の出来だった
自分が着たかったがその1号はカズにあげた
次の2号はマルさんが
3号でようやく僕のものになった
趣味みたいなものだから材料費も人件費もいらないとマルさんが言ってくれたから3着だけで終わりにしようと話した
3着とも違うデザインで3人で考えたkooブランド?マークの刺繍タグとマジックで1.2.3と番号をふった
僕の職業の原点となる3着
その3着が完成してからパタリとカズから連絡が来なくなった
僕のメッセージは既読もつかない
なんで?なんで?
高3になっても勉強の息抜きでたまにマルさんの店に顔を出した
ほんとは偶然にカズに会えないかと思ってた
「カズ今日くるよ」
心の声が聞こえたの?僕が驚いてマルさんを見てるとカズが店に入ってきた
久しぶりだな
そうだね
無言で僕たちは顔を見合わせる
僕はなぜかとても切なくてカズの手に触れた
「悪いな 俺そういうの苦手」
握り返して欲しかったわけじゃないのに
久しぶりに会えて気持ちが昂っただけ
もしかして僕はカズの事…今思えば誰かを好きだという感情を初めて知った
初恋だった
そんなはずないと否定する程苦しくて泣きそうになる
やんわりと僕は拒絶されたんだ
もうカズには会えない
カズ以外の男の子を好きになったことはない 恋愛対象は女の子
大学生活はそれなり充実してた
友達も出来たし彼女もいたりした
やりたい勉強もしっかり出来たし4年はあっという間だった
大学卒業したら自分のブランドを立ち上げる
それはカズに会えなくなったあの日に決めた事だった
大学在学中にファンド会社の父親からレクチャーされた株式投資でそこそこの利益を出した
僕の服を作れるのはマルさんしかいないと思ってたけどマルさんに会うのは少し怖かった
いやマルさんに会いに行ってカズに会うかもしれないと思うと怖い
でもそんな事言ってると一歩も会社が進まない
意を決して僕は久しぶりにkoo3に袖を通した
「こんにちは マルさんいますか?」
「いらっしゃいませ」
カズとマルさんと僕の3人でkooを着て撮った写真が飾ってある
店は4年たってもそのままだったけど店の奥から出てきたのはマルさんじゃなかった
「その服!その服伝説のkooじやないですか? 世界に3着しかないっていう!」
店員さんの興奮が嬉しい
僕は服の裾からkoo3というタグを見せて笑った
「写真撮っていいですか?」
「いやそんなことよりマルさんはどうしたんですか?」
「買い付けでタイなんです 最低でも1ヶ月ぐらい下手すると半年は帰ってこないと思いますよ」
「そんなにかかるんですか?」
「奥さんがあっちにいるんですよ」
衝撃だった マルさんに奥さん
「康太が会いたがってるって連絡欲しいって伝えてもらえますか?」
「康太ってkooのデザイナーさん?」
飾られた写真と僕を見比べてさらに興奮してる
「写真写真撮って!」
これはタイに行く事になるなと覚悟する
タイのバンコク 空気は重かった
空はいまにも雨が降りそうな厚い雲
大きな車で迎えにきてくれたマルさんは髭を生やし日焼けしてたくましくなった気がする
「わざわざ来るなんて何事?」
車の中には小さな子供がいて僕をジロジロみている
「マルさん奥さんいるんだって?この子マルさんの子?」
「そうだよ あと6人いるよ」
「7人も子供いるの?」
ついた家はありえないくらいデカくてゴージャス それよりもありえないぐらいの美人がマルさんの奥さんだった
7人の子供も美形揃いで母親を取り巻く小人みたいにかわいい
マルさんは決して王子様ではないけどね
僕とマルさんは僕に用意してくれたゲストルームで話を始めた
「ブランド立ち上げようと思ってる
僕の服を作ってくれるのはマルさんしかいないなと思って」
「そりゃいい
縫製全般のスタッフは俺の知り合いに頼むから7,8人ぐらい 俺はいいけど他のスタッフは無給じゃ困るぞ
どれぐらいの規模にするのかはわからないが全て違うデザインで最初20着ぐらい作って限定で売る
1着五万以上 販売は通販
お前が用意するのはミシンを最低でも5台置ける作業部屋と通販サイトを作る事
何より20着分のデザイン」
「え?1着5万なんて売れる気がしない
というか何?僕は立ち上げるって話今初めて話すよね?」
「カズがな 康太がきっと服屋やるからってその時絶対力になってくれって俺にアイディアを授けてくれた
それに名だたるブランドの服の値段知ってるか?kooは5万でも充分売れる それだけの価値がある服作るから
俺が店で着てる時どんだけどこで売ってるのか?売って欲しいって言われたか
20着なんてすぐに捌ける」
「ありがとう」
「カズに会えたらお礼言っとけ」
「マルさんもあってないの?」
「あいつ軽く行方不明者なんだよはははは」
それって笑い事じゃない
僕は一泊もせずに日本に帰った
初めから僕が会いに行くって言った時点できっとブランドの事だと思ってたはずでしょ?じゃ今の話ここに来なくても話せたよね?ってマルさんに言ったら康太の本気試すためって答えられた
「本気じゃないとここまでこないだろ?
ここまでこない男に俺が連れて行くスタッフの人生賭けられないから」
それでこそマルさん 美人の奥さんとかわいい子供7人がいる男はどんな時でもかっこいい
日本に帰ってマルさんの言われた通り作業部屋とミシン 大学時代の友達にホームページ作ってもらって通販サイトをつくる
マルさんに念を押されたのは念書を作れという事
就業規則みたいな?とにかく偽物が出回らないようにデザインの流出がないようにスタッフ全員に署名をもらう事
デザイン流出 偽物を作ったときは賠償と刑事罰
そこまで?と思ったけれどそれもカズの指示だって言われたら反論はない
足りないお金は父親から
僕のブランドは10月には通販サイトでオープンした
世界に一つの貴方の服 koo3
3を入れたのは始まりの3人という意味と僕が着ているのがkoo3だって事で3を入れた
驚いたのはオープンして30分で20着が即完した事だ
単純に計算して30分で100万を売り上げた
なるべく在庫は持たないとマルさんは言ったけどオープン前は金を借りた父親のプレッシャーで出来るだけ作れるだけの在庫は確保していた
次の日からフル稼働でブランドは徐々に育っていく
I年後にはいくらでもいいからというオーダーで受注販売も始めてブランドは安泰になった
僕はみんなの給料が払えて借金の返済ができて僕の服を喜んでくれる人がいるって事だけでよかった
綺麗事じゃなく本当にそう思っていたのに3年後サーバーがダウンする程の大波がやってきた
最初は何が起こったかわからない
とにかく全てが破裂したように電話は鳴り響き サーバーの復旧は出来ず
その対応で何日も眠れなかった
原因は伝説のBlue Beeというバンドのボーカルのπという人がkoo3の服を着てインスタを上げたという事だった
僕にはそのインスタに映るπという人より隣の人物に心が締め付けられた
顔は写ってないが絶対カズだと確信があった
友達のかっこいい服を拝借 koo3
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厳密にいうとその服はkoo1だけど
すぐにπという人に逢えるようにいろんな人がいろんなツテを使って動いたけれどバンドが解散しているし所在もはっきりしない人だった
だから余計に関心を持たれてkoo3が注目されたようだった
カズが僕のブランドを大きくしてくれた
いやカズがいなかったらブランドも存在していない
そこからブランドは大きなうねりに揉みくちゃにされる
出資したい工場を建てて大きくしたい
色んな人が色んなあやしさで近づいて来たけどマルさんが全てノーと言った
ただでさえ偽物が出ているのにブランドの把握が出来なくなるという答えだった
父親はブランドに偽物はつきものだし多売は悪い事じゃないと目先の欲をかいたけど僕もマルさんに賛成してそこそこ広さのあるオフィスとミシンを10台 信用出来そうなスタッフ15人を追加しただけだった
だから通販サイトに服をあげれば即完
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偽物を高値で買う人がいる
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何?
「あのπのインスタ以来かかって来てる電話なんですけど…πの隣に映っている人の連絡先が知りたいって」
インスタがあがった時そんな問い合わせも山程あった でも顔は映っていない 上半身Blue BeeのバンドTだけ
僕たちはすぐにカズだと気づいたけどこの写真を見てカズだと気づける人はそうそういないはず
「そんな困る事?知りませんでいいじゃん」
「それが 中学の時の同級生でどうしても連絡取りたいって」
「は?そんなの嘘じゃないの?」
「中学八奈見第1の真田って人ですよね?って」
電話の人物と直接会うと決まるとずっと逃げ出したい気分だった
でも無視しててもどうしても気になる
望月ハル
その彼女はそう言った
昔カズから言われた
「お前なんか俺の女友達に似てる ハルって言うんだ お前と気が合いそう」
カズから唯一聞いた女の子の名前
女友達ハル
そのハルに合う
期待と緊張
「お時間いただいてありがとうございます」
オフィスの応接室で会う事にした
「大丈夫です 今日は比較的時間に余裕がありますから」
僕のステイタスを見せつける
かわいいけど平凡な女の子いうありふれた第一印象 カズの事が無ければ引っ掛かりもしない
「早速ですけどカズを探しているんですか?」
「やっぱりπと写ってるのはゆっきーなんですね」
「ゆっきー?」
「すいません 真田くんなんですよね?」
「そうだと思います kooを宣伝してくれたのはカズだと確信してます 僕とあと1人聞いて分かりますかね?マルさんとでこのブランドが立ち上がったんです」
「マルさん?」
「カズのいとこの古着屋さんです」
「なんでカズだと思ったんですか?」
「写真に写ってるバンドTです このTシャツ世界に1枚なんです」
「Blue Beeは有名バンドですよね?世界に1枚ってどうしてですか?」
「私がこのTシャツに落書きしたからです」
そう言って携帯の画面を僕に見せる
グレーの色落ちしたTシャツ
前面に真っ青なハチ Blue Beeの赤文字
「ここ見て」
引き伸ばした肩の部分
ひらがなでぶるーびーと書かれているその横に下手くそなギターの絵
「これ私が書いたんです
このBlue Beeってバンド私も好きでこのTシャツ自慢されてほしいって言ったらダメって言われて隙見て落書きしたらほんとはあげるつもりだったけど世界に一つになったからあげられないって この写真見て絶対ゆっきーが自分を探せって言ってると思って πやバンドメンバーのインスタやXでD Mしまくったりしつこくkooに電話かけてやっと今日なんです
ゆっきーの連絡先わかりますか?」
そうかkooを有名にしたのはオマケだったんだ
ハルにだけ届けばいいと思ってこの写真をとったんだね
もしかしてその中に僕も含まれてる?
ハルと僕を繋ぐ為?そうなの?
「なんでカズの事ゆっきーって呼んでるの?」
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