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 神秘的な幻想を思わせる教会は、ステンドガラスが豪華な装飾がされており、太陽の光にさらされている。

 教会内を呵責なくあらわにする陽光は、教会用の建物に反射して複雑な影が至る所に浮かびあがっている。

 その中に一人、真正面にある聖堂に向かって十字架を持ち手を組み、膝を折り曲げ祈るシャルルの姿もあった。

 大事な人に何も言わず神聖国に来てしまったのは、この戦いに彼を巻き込みたくなかったからだ。

 私の心は騒めく。

 やはり、彼に伝えてお互いに助け合えばよかったのではないがと思ったが、すぐに首を横に振る。

 ここでは、どこかで聞き耳を立てているかわからない状況で、おちおちとはしてられない。

(女神様、どうか私の願いを届けてください)

 彼を巻き込んではいけない、とシャルルは必死に自分に言い聞かせた。

 彼に魔神復活のことを相談できれば、彼ならなんとかしてくれそうな予感はしていた。すべて終わると。そうしたら自分は苦しまずに済むのだと。万事は滞りなくいくのにーーー

 その時、カツカツと音が聞こえてきて振り返ると、闇の向こうから足音が響いてくる。

 最初に現れたのは、手だった。斜めに差し込んだ陽光の光の影から日向から手が浮かび上がっている。それは瞬く間に影に消え足音だけが鳴り響いた。

 ここに入れるのは特別の神官しか入れない。

 私を呼びに来たのかと思い、足音のする方へ歩き出す。

「私に御用でーー」

 魔力の感知と共に光弾が光ったのと自分腿に衝撃が走ったのは同時だった。取り落とした十字架が衝撃でどこかに飛んでいく。

「え?」

 咄嗟には何が起こったのかわからなかった。

 シュ、という魔法の音が聞こえて、直後に腿に烙印を押し付けられたような熱が襲ってくる。

 恐る恐る腿を見ると、スカート越しに真っ赤になった足部があった。

「あ…あ.....ッ」

 撃たれたと悟った瞬間、猛烈な痛みが脳を駆け上がってくる。

 この魔力は.....。でも、なんで.....?

 人影は歩きながらさらに一回魔法の光弾を発砲し、撃たれてない方の腿を貫通する。

 呼吸がままならない。苦しいと思った瞬間、心の奥から湧き上がってくるものがあった。

 すかさず、魔力が膨れ上がる。その一瞬魔法を放つ人物を目視することができた。よかった。このままじゃ訳も分からなくず死んでしまうところだった。

 これは、私の罪なのかな.....?

 影の中にいる人に向かって私は言葉を放つこれが届くかわからないけど、そんな顔をして。

 シャルルの脳裏をさまざまな楽しかった思い出が、駆け巡り、目頭が熱くなり溢れだしてくる。

 虚空に手を伸ばし、その中で一番うれしかった思い出ーーーある少年との思い出をつかみ取る。

「ノエル君.....」

 光弾が放たれ、教会内が一瞬光った。魔法の特有の音と、襲撃者の涙の音だけが耳に残った。

 私は胸を光弾が貫通した。
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