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第1章
普段の日常
しおりを挟む———ザワザワ……ザワザワ……———
「あっ、そこの…ちょっと…」
「はい、少々お待ち下さい…」
はぁ……ヤバぃ………
早く、帰りたい……
湊音は、じっとりと汗ばみながら、フェロモンの渦巻く会場を進んでいた。
——————————————————————————————
「んじゃあ、バイト今日遅くなるから…待ってなくていいから、先に寝ててよ?この間みたいに、起きてないで…」
「はいはい…分かったから、気をつけて行っておいで……あっ、薬は持ったかい!?」
「ばぁちゃん、大丈夫!ちゃぁ~んと鞄に入ってるって!特に、今日はαとの接触が多くなるから、シフトに入る前にキッチリ飲んでから仕事するから」
ホッとした様子で、湊音をいつものように送り出し家へと入って行く。
それを見届け、バイトに足を向ける。
今日は、本当なら大学もバイトも休みの為、いつも自分の事を気にかけてくれている祖父母とゆっくり過ごそうとしていたのだが、バイト先の支配人にどうしてもと頭を下げられ、仕方なく急遽シフトに入る事になったのである。
「おや?…君はβだと思っていたんだけど、Ωだったんだね……」
「あ、はい…やはり、Ωだとこういった職種では雇っては頂けないでしょうか?」
「う~ん……まだ番にはなってないんだよねぇ?」
「……はい、なかなかご縁がなくて」
「え?そうなの?…いや、そんな事は無いと思うんだけどね?」
苦笑しながら答える湊音に、目を見開き心底驚いた様子の支配人に思わずクスクスと笑ってしまう。
「あ…すみませんっ!」
「いやいや、こちらこそ悪かったね立ち入った事聞いちゃって…でもまぁ、うん…全くΩが居ないって訳でも無いし、君人当たり良さそうだから、今回は採用って事で……」
「ほっ本当ですか!?」
「うん…いつから、シフトに入ってもらえるかな?」
思わず腰を浮かせ、詰め寄るように訊ねた湊音にニッコリと微笑み返し、その場で採用を告げる支配人にはその後も目にかけてもらっている。(ただ単に、危なっかしくて目が離せないだけかもしれないが……)
他の従業員達も優しくて、世間ではΩが理不尽な扱いを受けている事を忘れてしまいそうになる事もある。
特に湊音は、パッと見はそこら辺のβと変わりなく見えるが、Ωらしく発情期もあるしキチンと処方された抑制剤を持ち歩かなければ、気軽に外も歩けない。
この見た目で得なのは、首輪を必ず着けないと危険なΩらしいΩとは違い、ちょっと外したとしてもよほどのことがない限り、襲われて頸を噛まれる心配が少ないという事ぐらいだろうか。
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