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プロローグ 三者三様の勧誘

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「せーんぱーい。はやくゲロっちゃったらどうなんですか~? 私のことが好きだって~」
「とっとと認めろよ陰キャ。オマエの身体はもう闘争を求めだしてんだろ?」
「昌也……。わーと、有限にアガペーを見よ?」

 俺(虫弓昌也)は今、何の因果か三人の美少女に囲まれ、そんなようなことを言われながら詰め寄られていた。旧校舎の古びた部室で。
「いや、さっきから言ってる通り、俺は……」
 そして、段々と近付いてくる三つの美貌に後ずさりながら言葉に窮していると……。
「えへへ~、強がっちゃってもぉ~。先輩ってば、そう言いつつも心の中では私のことかわいいって思ってるの、バレバレですよ? 上圓がだいすきってぇ、顔に書いてありますもん?」
 ピンク髪が目を引くどことなく庇護欲をそそらせる外見をした清楚にもビッチにも見える魔性の美少女(上圓しえる)が俺の手を取り、上目遣いに猫なで声でそう言った。
「思ってない」
 一応否定しておく。かわいいとは思っていたが、大好きとは全然思っていないので。
「またまた~。私のことが大好きじゃない男とか~、存在しないじゃないですか~?」
 ゆるふわな口調に反し、めちゃくちゃなことを言っている。頭がおかしい。
 すると、
「ちっ……。淫乱ピンクがまたでしゃばりくさってからに……(小声)」
 俺と同じような意見を持っているらしき実は小心者の金髪ギャル(荒木蘭菜)が、陰険な目付きで俺と上圓を睨んできた。ちなみにこのギャルも、顔は結構可愛い。
「あっははー。せんぱーい、このゲームオタクのヒト、こわーい?」
 まるで怖がってなさそうな声で、上圓は俺の腕を抱く。割とナチュラルにこちらを盾にするようなスタイルで。
 いともたやすく行われる自然な悪行。かわいい見た目でやることがあくど過ぎる。
 しかし、このプチ悪事にはなんというか、副産物があり――。
 もにょ。
 そう、抱きつくことで必然的に彼女の胸部が俺の腕へ押し付けられる形となり、まだ中三のくせになかなかしっかりとした二つの弾力を、俺の全神経は堪能させられていた。
「なあ、胸が……」
「――アタシはゲームオタクなんかじゃあねえ!」
 怒髪天の金髪ギャル。
 幾許かの罪悪感に苛まれて年下のおっぱいを振りほどこうとしていたら、急に荒木がその持ち主に向けて怒鳴り出し、その機会を逃してしまった。
「え~? だってゲームの部活つくるんですよね~?」
「ゲームの部活じゃねえし! フロムゲーの部活だわ! 二度と間違えるなクソが!」
「つまり、ゲームですよね?」
「ふっ、しえるちゃんの様なクソビッチにはわかるまい。フロムという深淵な概念が……」
「いや、どう見てもらんちゃんの方がビッチでしょ……」
「はあ? 彼氏いない歴=年齢のこのアタシのどこがビッチだし!」
「へー、まあものはいいようですよね。彼氏はいなくても、パパやオトモダチが何人いるかとか? そのヘンはわかったもんじゃないですし」
「なっ!? そ、そんなの、いるわけないじゃん!」
「きゃはー、なに赤くなってんですかァ? この先輩カマトト演技上手過ぎ~。さっすが私よりもひとつおばさんなだけあるなー。上圓も~、見習わなきゃかもですね?」
「ううっ……。ぐずっ……ひどい……。ううっ、むしくーん、うえええ」
「泣き顔、ブスですね」
 黙って聞いていたら、ものの数秒で悲惨なことになっていた。後輩に泣かされるなよ……。
 こんな状況、すぐにでも逃げ出したいのだが、右腕を上圓に拘束されていてそれも叶わない。
 はあ……。
「おい上圓、いい加減に……」
 さすがにこの小悪魔系後輩の毒吐きを止めるべきなのかしら、なんて思って、いよいよ声をかけようとする。
 が――。
 ぺとっ。
 なんだか不意に、左腕にまで、おそらくは女体であるだろう未確認の感触が。
 俺は右に向いていた視線を左へと向ける。
「入るなら、わーの部……。でしょ……?」
 そこには、俺を見上げる高二なのに小6くらいの身長の先輩(杠依雨(ゆずりはいう))の無表情な小顔が。どうやら彼女も上圓と同じように、俺の腕をえいや!と抱いたらしい(残念ながらそのつつましい御身体では、言うまでもなくあの小悪魔後輩に完全敗北していたが)。
「えー、えーとですね……」
 右でから聞こえてくる泣き声を鼓膜からシャットアウトしながら、俺はどう先輩の言葉を否定しようかと考える。
 なぜってあの二人はあんな調子なので別に断ってもそこまで良心が痛んだりはしないのだが、この先輩に関してはすごく丁寧にきちんとお願いしてくるので、なんだか断りづらいのだ。
「いや……?」
「うっ……!」
 なんだこの、愛玩性の強い哀願はっ!?
 ミステリアスな瞳に浮かぶほんのわずかな「断られたらどうしよう」という憂いが、俺を悩ませる。
 うまく言えないが、ここで彼女のおねだりを断ってしまうと、ともすれば彼女は壊れてしまうんじゃないだろうか――そう思わせるまでの儚い雰囲気を、杠先輩は纏っていた。
「お願い……。だめ……?」
「う、ううっ……!」
 俺の腕をぎゅうと力を込めた細腕で抱きとめながら、縋る様な声音で耳朶まで犯す。
 おそらくは上圓のそれと百八十度違って非故意に行われるその尊い天然由来の仕草に、思わず頷いてしまいそう……。
 その時だった。
「――はぁ? そんなのあるわけないじゃないですかー。うう~っ、あっ、せんぱいもそう思いますよね? ね?」
「え? すまん、何の話だ?」
 急にグイグイと俺の上腕を引き寄せながら問いかけてくる上圓に困惑する。
「せ・ん・ぱ・い~!! 聞いてなかったんですか~?? まじ上圓おこですよ! ぷんぷんですよ? ぷ・ん・ぷ・ん!」
「おえっ。ダメだ、しえるちゃんのぶりっこにやられた。うぷっ、気持ち悪い、吐きそう……」
「上圓を見て吐くとか、美的感覚が狂ってるんで病院行ったほうがいいですよ」
「なるほど! ここに病院を建てよー的な?」
「は? やっぱダメだわこの先輩」
「ひどい……!」
 まずい。このままだと、またこの荒木とかいうギャルの涙腺が決壊する。
 目の前で何度も泣かれるのも嫌なので、仕方なく声をかけてしまう。
「上圓お前ほんと荒木で遊ぶのもいい加減にしろよ」
 すると、
「はは~。おもしろいこと言いますねー。じゃあ、せんぱいで遊んじゃおっかな~。そもそもの目的は、そっちですし」
 標的が俺へと変更されてしまった。
「え」
「いや、むしくんと遊ぶのはこのアタシなんですけど!!」
「は?」
 しかもなぜか情緒不安定なギャルまで急に詰め寄ってきて怖い。
「決断の保留は、永遠じゃ、ない……。自明のこと……。ちがう……?」
「えぇ、先輩まで……?」
 更には天使の様な無垢な双眸。
 胃がキリキリと痛む。さっきよりもずっと密着した三人の美少女が、あんまり予断を許さない感じで俺の顔を睨みつけていた。
 しかもその密着感は圧迫感と共により強くなって、俺を襲う。
 ぐいっぐいっぐいっ。
「いい加減はっきりしてください。どうなんです?」
「まったくだし。誰の部に入るわけ、むしくん?」
「結論、聞かせて……?」
 迫る三つの整った顔面。身体。香り。
 もう、どうしろというのか。
 大体――
「そもそも俺は、どの部活にも入る気はない!」
 俺は視覚と触覚と嗅覚をどうしようもないくらいにこの美少女連中に刺激され、頭がどうにかなりそうなのを必死に堪えながら、それだけを叫ぶ。

 ………………。

「はあ……、はあ……」
 夢だった。
 が、あながちこれは夢物語でもない。かなりリアルに忠実な夢だった。
 ほんと、勘弁して欲しい。
 まったく、どうしてこうなった……。
 なぜにして、どこまでも無趣味な俺が、入りたくもない部活なんていう趣味の延長線上にあるようなものに、入れ入れと、三人の美少女からこうもしつこく迫られる羽目になってしまったのか?
 意味がわからない……。

 俺は頭を抱えながら、少し前の自分の行動を反省し始めた――。
 
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