ストーカーと彼女

後片付けと口裏合わせ

　

(彼女視点)

　さて、どうしたものか…

　状況は混沌としている。
　床には乾いた血溜まり。
　ベットと彼と私は精液で汚れている。

　風呂に…入るか。
　いや、先に床の掃除をしよう。

　彼の横まで歩いていく。
　彼の真っ赤な頬をそっと撫でてこっちを向かせる。
　少し泣きそうな赤らんだ顔が震えている。
　片手の親指でそっと涙を拭う。

　彼はただのストーカーではなさそうだな…

　彼の職場で、彼についての話を聞いた。
　彼の日ごろの様子、職場の人との関係などだ。
　彼の上司によると、彼の父親は、時々彼の給料を前借りに来ていたらしい。
　彼が、彼の父親になんらかの暴力を受けているのは確かだそうだ。
　彼の上司は、彼の母親にあった事がないそうで、母親の事は聞き出せ無かった。

　一回自宅まで行ってみるか…

　彼の父親というのが気になる。

　ただのDVならなんとかなるが、そっち系の方々との付き合いがあるとなると厄介なんだよな…

　彼を迂闊に外に出すと、自分の身を危険に晒しかねない。

　ま、まだ・・あんまり外に出す気は無いけど、いつかは自立して貰わなくっちゃな…

　彼の赤く潤んだ目がこっちを向いている。

　かわいい…

　ゆっくり額を近づける。
　じっと目を見つめるて少しして、そっと舌を入れてキスをする。

「あ…」

　彼が何か言いかける、若干の抵抗はあるものの、私の舌を受け入れた。
　クチュックチュと音の無い部屋に、舌を絡める音が響く。
　しばらく口の中舌を絡め、感触を堪能する。
　適当なところで、ゆっくり舌を引き抜く。
　彼の額に自分の額を当てる。
　じっと彼を見つめる。
　目と目が合う。

　癒されるなぁ…でも…、キリの良い所で上手に逃がしてあげないとな…

　ふと、そう思った。




　さて、取り敢えず、昼の時間帯だし、近所の人は全員出払っていただろう。
　ただ、次叫ばれて、どういう形だろうと人を呼ばれたら困る。

　私は男の口にそっと轡をする。
　彼は、抵抗せずにじっとこっちを見ている。

　今朝、轡を外して出て行ったのは…まあ、水も飲めなくなってしまうし、動けなくなってしまうから仕方無いとしても…どうするかな…

　このままでは外に出られない。

　一緒に買い物に行くか？
　リスクが大きすぎる。
　準備が必要だな…

　床の掃除に取り掛かる。
　それが終わってから、一足先にシャワーを浴びた。

　ふー…久しく取ってない有給を取るか…季節外れのインフルエンザとか言って…診断書が必要そうだな…

　体を洗い終わり、軽く空のバスタブをシャワーで流し、お風呂の栓をする。
　お湯はりのスイッチを入れ、タオルを取る。

　普通に、風邪…いや、傷心旅行という事にでもするか…

　幸い仕事は、先に色々と片ずけてある。

　今は繁忙期でもないし、私一人抜けても大丈夫だろう。
　服を着て、脱いだ服のポケットに入っていた携帯電話をたり出す。

「はい、こちらabc株式会社…」
「もしもし、YYです。お忙しい所申し訳ありません。お時間よろしいでしょうか？」
「YYさん？どうしました」
「実は一週間ほどお休みを頂きたく…」
「え！はぁ、何があったんですか」
「えっと…ちょっとその…、振られちゃいまして…」

　この辺はの演技は慎重に…

「………え！、YYさん好きな人いたんですか！」
「ええ、まぁ」
「あー、わかりました。今の時期はそんなに忙しくないので、大丈夫だとは思いますが…」
「お手数お掛けします」
「いえ…あと、そのー」
「？」
「元気出して下さい、社長には、風邪を拗らせた事にしておいて貰いますので…」

　優しい窓口さんで良かった…

「本当にすみません、ありがとうございます」
「いえ、それではお大事に～」

　電話が切れる。
　私は携帯を置いて、着替えた。

　よし、これで休みは取れたな…

　着替えて、男の所へ戻る。

　そういえば、お昼まだだったな…

　ふー、と、長いため息を吐いた。