ストーカーと彼女

ココナッツ?

文字の大きさ
上 下
1 / 24

ストーカーの日常に起こった異常事態

しおりを挟む
 


(彼視点)

 タイマーの電子音と、ツンと鼻につくビールの匂いで目が醒める。
 所々痛い体を引きずりながら、何とかバイトに行くために着替える。
 私はボサボサの伸びた髪を適当にまとめて、逃げる様に外に出た。
 父が起きてしまえば、何をされるかわかったものではない。
 昨日も、何か気に入らない事があったのか、帰ってきた時はとても不機嫌だった。
 父は、何か気に入らない事があると私に当たる。
 帰ってきて私を殴るのだ。

 私は、小さい頃から会話が下手で、人前ではまず喋る事が出来ない。
 声が震えて出てこないのだ。
 だから職場も限られてくる。
 本当はもっと働いて、父と離れて暮らしたいが、今の収入では、それは叶わない。

 私は行きがけの道の、私が好きな女性の部屋が覗ける、廃工場へと入る。
 遠目に彼女はまだ寝ている。
 ああ、起きた。
 眠たそうに瞼をこする彼女は可愛くて素敵だ。
 ベットから足を出す。
 パジャマを履いている足が艶かしい。
 彼女は着替え始める、私も流石に目を逸らす。
 カーテンを開けたまま着替えるのは大分無防備だと思うが、そうでなければ私は彼女を見ることすら叶わない。
 もう一度彼女を見る。
 ああ、今日も綺麗だよ。
 今日も美しい。
 今日も会いに行くからね。

 そう思って廃工場を出た。

 仕事がやっと終わって、私は彼女の家の裏についた。
 一時期、私の侵入を疑われ警察やら探偵やらがうろついていた時期もあったが、何とか私は彼らの目をごまかした。
 それ以来、監視カメラが多くなったが、位置を全て把握している為、何とかなっている。

 私には、彼女のストーカーであるという自覚がある。
 目はつり目で、会話も出来ず、収入はない。
 自分の様な人間が、彼女に愛されるはずもない。
 初めは、辞めようと思った。
 だが辞められなかった。

 私は彼女が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方がなかった。
 彼女を見ない日は一日中落ちつかなかった。
 居ても立っても居られなくなって、飛び出して、彼女を見て、安堵するとやっと落ち着く事が出来た。
 この一種の呪いの様な異常な執着を何とか抑えられたのは、私の唯一つの自慢だ。

 彼女の家に侵入する。
 いつもと同じ侵入ルートだ。

 彼女の家の寝室までたどり着く。
 ああ、今日も可愛い彼女は眠っている。
 そっと匂いを嗅ぐ。
 甘い匂いがした。
 今日も呆然と佇みながら、頭の中で今日あった事を彼女に話す。

 今日は、父が職場に殴り込んできたんだ。
 私を殴って金だけ持っていってしまったんだ。
 そこのバイトクビになってしまったんだ。
 明日から、またバイト探さなくてはいけない。
 ねぇ、聞いてる?
 ああ、眠ってる君は今日も綺麗だ。
 ねぇ、こんな日ぐらい、君に触れてもいいよね。
 こんな日ぐらい、少しだけ、頭にだけ、そっと撫でるだけだから、君に触れてもいいよね。

 私はそっと彼女に手を伸ばす。
 彼女はスヤスヤと眠っている。

 彼女は、私が頭を触れても起きなかった。
 手がジンと熱くなる。
 ああ、私は、貴方が好きで、触っただけで、貴方に溶かされてしまいそうだ。

 ごめんね。
 私が、君を好きになってしまったばっかりに、
 私が、君を好きでたまらなくなってしまったばっかりに、
 君はきっと怖い思いをしただろう。

 こんな私は、いっそ……

 そう、思いかけた時はだった。
 戻しかけた私の腕がぎゅっと彼女の片腕に引っ張られて、私はバランスを崩し、前へ倒れた。
 彼女は反対の手に持っていた何かを私の首に押し当てる。
 一瞬の冷たい感覚の後、文字道理体に電流が走り、
 私は動けなくなってその場に倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...