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ストーカーの日常に起こった異常事態
しおりを挟む(彼視点)
タイマーの電子音と、ツンと鼻につくビールの匂いで目が醒める。
所々痛い体を引きずりながら、何とかバイトに行くために着替える。
私はボサボサの伸びた髪を適当にまとめて、逃げる様に外に出た。
父が起きてしまえば、何をされるかわかったものではない。
昨日も、何か気に入らない事があったのか、帰ってきた時はとても不機嫌だった。
父は、何か気に入らない事があると私に当たる。
帰ってきて私を殴るのだ。
私は、小さい頃から会話が下手で、人前ではまず喋る事が出来ない。
声が震えて出てこないのだ。
だから職場も限られてくる。
本当はもっと働いて、父と離れて暮らしたいが、今の収入では、それは叶わない。
私は行きがけの道の、私が好きな女性の部屋が覗ける、廃工場へと入る。
遠目に彼女はまだ寝ている。
ああ、起きた。
眠たそうに瞼をこする彼女は可愛くて素敵だ。
ベットから足を出す。
パジャマを履いている足が艶かしい。
彼女は着替え始める、私も流石に目を逸らす。
カーテンを開けたまま着替えるのは大分無防備だと思うが、そうでなければ私は彼女を見ることすら叶わない。
もう一度彼女を見る。
ああ、今日も綺麗だよ。
今日も美しい。
今日も会いに行くからね。
そう思って廃工場を出た。
仕事がやっと終わって、私は彼女の家の裏についた。
一時期、私の侵入を疑われ警察やら探偵やらがうろついていた時期もあったが、何とか私は彼らの目をごまかした。
それ以来、監視カメラが多くなったが、位置を全て把握している為、何とかなっている。
私には、彼女のストーカーであるという自覚がある。
目はつり目で、会話も出来ず、収入はない。
自分の様な人間が、彼女に愛されるはずもない。
初めは、辞めようと思った。
だが辞められなかった。
私は彼女が好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方がなかった。
彼女を見ない日は一日中落ちつかなかった。
居ても立っても居られなくなって、飛び出して、彼女を見て、安堵するとやっと落ち着く事が出来た。
この一種の呪いの様な異常な執着を何とか抑えられたのは、私の唯一つの自慢だ。
彼女の家に侵入する。
いつもと同じ侵入ルートだ。
彼女の家の寝室までたどり着く。
ああ、今日も可愛い彼女は眠っている。
そっと匂いを嗅ぐ。
甘い匂いがした。
今日も呆然と佇みながら、頭の中で今日あった事を彼女に話す。
今日は、父が職場に殴り込んできたんだ。
私を殴って金だけ持っていってしまったんだ。
そこのバイトクビになってしまったんだ。
明日から、またバイト探さなくてはいけない。
ねぇ、聞いてる?
ああ、眠ってる君は今日も綺麗だ。
ねぇ、こんな日ぐらい、君に触れてもいいよね。
こんな日ぐらい、少しだけ、頭にだけ、そっと撫でるだけだから、君に触れてもいいよね。
私はそっと彼女に手を伸ばす。
彼女はスヤスヤと眠っている。
彼女は、私が頭を触れても起きなかった。
手がジンと熱くなる。
ああ、私は、貴方が好きで、触っただけで、貴方に溶かされてしまいそうだ。
ごめんね。
私が、君を好きになってしまったばっかりに、
私が、君を好きでたまらなくなってしまったばっかりに、
君はきっと怖い思いをしただろう。
こんな私は、いっそ……
そう、思いかけた時はだった。
戻しかけた私の腕がぎゅっと彼女の片腕に引っ張られて、私はバランスを崩し、前へ倒れた。
彼女は反対の手に持っていた何かを私の首に押し当てる。
一瞬の冷たい感覚の後、文字道理体に電流が走り、
私は動けなくなってその場に倒れた。
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