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不穏な足音
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「音羽のことが引っかかっていたんだよ。俺以外に、君を気にかけてくれる近しい人はいるのかと」
「そんな……私のせいで碧斗さんは、姉のひどい態度も我慢して」
「それは違う。単なる俺の自己満足のためにだ。傲慢な考えだと自覚はある。音羽を少しでも守ってやりたくて、どうしても縁を切る決断ができなかった。音羽を好きだと自覚したのはもう少し後だが、思えばその頃から、君は俺の特別だったんだ」
彼からの告白に、ジワリと涙が滲む。
「姉の婚約者だった男から告白されても、きっと音羽を困らせてしまうだけだろう。だから、ずっと言えずにいた」
私の手を包み込む彼の手に、ぐっと力がこもる。
「でも、こんなふうに不安にさせるくらいなら、最初から伝えるべきだったな。俺は音羽を愛してる。たとえ音羽がほかの誰かを好きでいようと、もう放してやれない」
「ほ、ほかって。私が好きなのは、ずっと碧斗さんだけだったわ」
彼以外の男性の存在を疑われ、思わず声を上げる。
そうしてハッと気づいたときには、碧斗さんにきつく抱き寄せられていた。
「本当か?」
すぐに反応を返せない。
焦れた碧斗さんが、さらに私を追い込んでいく。
「なあ、音羽。今のは本心か? 頼むから、もう一度聞かせてくれ」
耳もとで懇願するように言われたら、もう降参だ。
彼の胸もとにあった自身の手に力を込めて、わずかな隙間をつくる。
それから、碧斗さんを見上げながら告げた。
「私は、碧斗さんが好き。姉に嫌味を言われようとも、いつも気遣ってくれた碧斗さんがずっと好きだった」
「音羽」
切ない声で私を呼びながら、頬をなでられる。
彼にされるまま流されてしまおうかとも思ったが、それでもこれだけはもう一度言っておきたくて声を上げる。
「翔君には」
その名前を出した途端に、碧斗さんがピクリと反応する。
「高校生の頃に、私の気持ちに気づかれてしまって。碧斗さんたちから距離をおいたらどうかって、翔君がフランス行きを後押ししてくれたの」
「翔が?」
顔を覗き込み、本当かと碧斗さんが視線で尋ねてくる。
「ええ。もちろんそれが目的じゃなくて、向こうでもっと音楽の勉強をしたかったっていうのが主な理由で」
軽はずみな気持ちで渡仏したと誤解されたくなくて、「本当だから」と念を押す。
過去のあれこれを自ら白状する様を、至近距離から見つめられるのはなかなか恥ずかしい。たまらず視線を彼の胸もとに移した。
「そんな……私のせいで碧斗さんは、姉のひどい態度も我慢して」
「それは違う。単なる俺の自己満足のためにだ。傲慢な考えだと自覚はある。音羽を少しでも守ってやりたくて、どうしても縁を切る決断ができなかった。音羽を好きだと自覚したのはもう少し後だが、思えばその頃から、君は俺の特別だったんだ」
彼からの告白に、ジワリと涙が滲む。
「姉の婚約者だった男から告白されても、きっと音羽を困らせてしまうだけだろう。だから、ずっと言えずにいた」
私の手を包み込む彼の手に、ぐっと力がこもる。
「でも、こんなふうに不安にさせるくらいなら、最初から伝えるべきだったな。俺は音羽を愛してる。たとえ音羽がほかの誰かを好きでいようと、もう放してやれない」
「ほ、ほかって。私が好きなのは、ずっと碧斗さんだけだったわ」
彼以外の男性の存在を疑われ、思わず声を上げる。
そうしてハッと気づいたときには、碧斗さんにきつく抱き寄せられていた。
「本当か?」
すぐに反応を返せない。
焦れた碧斗さんが、さらに私を追い込んでいく。
「なあ、音羽。今のは本心か? 頼むから、もう一度聞かせてくれ」
耳もとで懇願するように言われたら、もう降参だ。
彼の胸もとにあった自身の手に力を込めて、わずかな隙間をつくる。
それから、碧斗さんを見上げながら告げた。
「私は、碧斗さんが好き。姉に嫌味を言われようとも、いつも気遣ってくれた碧斗さんがずっと好きだった」
「音羽」
切ない声で私を呼びながら、頬をなでられる。
彼にされるまま流されてしまおうかとも思ったが、それでもこれだけはもう一度言っておきたくて声を上げる。
「翔君には」
その名前を出した途端に、碧斗さんがピクリと反応する。
「高校生の頃に、私の気持ちに気づかれてしまって。碧斗さんたちから距離をおいたらどうかって、翔君がフランス行きを後押ししてくれたの」
「翔が?」
顔を覗き込み、本当かと碧斗さんが視線で尋ねてくる。
「ええ。もちろんそれが目的じゃなくて、向こうでもっと音楽の勉強をしたかったっていうのが主な理由で」
軽はずみな気持ちで渡仏したと誤解されたくなくて、「本当だから」と念を押す。
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