97 / 113
不穏な足音
26
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと翔君!」
「いいから――ああ、兄貴?」
どうやら、碧斗さんに電話をかけているらしい。
「音羽とふたりで飲んでいたんだ。そんなに怒るなよ。兄貴だって、音羽に黙ってほかの女と出かけていたんだろ?」
いったいどんな話になっているのか。碧斗さんを挑発すような発言は控えてほしい。
「か、翔君! お願い、返してよ」
「はいはい、ちょっと待って音羽――兄貴。俺、約束したよな? 音羽を幸せにしてやってくれって。できないのなら、俺が音羽をもらうから」
「なっ、なに言ってるのよ!」
翔君が私を恋愛対象として見ていないくらい、普段の関係性から断言できる。私と友人付き合いしている間にも、彼には彼女がいた。
でも、今の言い方はいかにも相手を勘違いさせてしまいそうで、スマホを取り戻そうと必死に腕を伸ばした。
「ああ、来なくていいって。今夜は、俺が責任をもって音羽を自宅まで送るから」
それだけ言うと、一方的に通話を切ってしまった。
「ちょっと、翔君!」
焦って抗議の声を上げる私に、意地悪な笑みを向けてくる。
「兄貴、怒ってたな」
「そんな……」
恐怖に顔が引きつってしまう。
「音羽にじゃなくて、俺に対してだよ。ほら、送っていくからそろそろ出るぞ。急がないと兄貴のやつ、捜索願でも出しかねない勢いだったからさ」
「捜索願!?」
状況がよくわからないが、聞き捨てならない言葉に声を上げた。
「お詫びに、ここは俺のおごりな」
呆然とする私を、翔君が楽しそうに引っ張っていく。
店外に出たすぐに運よくタクシーを確保でき、急いで乗り込んだ。
「碧斗さんと、なにを話したのよ?」
問い詰める口調になるのも仕方がないだろう。翔君にはずいぶんお世話になっているけれど、さすがに勝手に電話をかけたのはだめだ。
「大丈夫。兄貴はただ、音羽を心配しているだけだ」
意味ありげに笑っているが、それ以上話すつもりはないらしい。
マンションに到着し、タクシーを降りる。
「とりあえず、今夜はありがとう」
一秒でも早く碧斗さんの誤解を解きたくて、気持ちが急く。
そんな私をよそに、なぜか翔君まで降りてタクシーを返してしまった。
「ちょっと、翔君?」
「まあ、いいから」
なにがいいのかわからないが、ぐいぐいと背中を押されて渋々エントランスの方を向く。その正面に立つ人影に気づいて、瞬間に体を強張らせた。
「いいから――ああ、兄貴?」
どうやら、碧斗さんに電話をかけているらしい。
「音羽とふたりで飲んでいたんだ。そんなに怒るなよ。兄貴だって、音羽に黙ってほかの女と出かけていたんだろ?」
いったいどんな話になっているのか。碧斗さんを挑発すような発言は控えてほしい。
「か、翔君! お願い、返してよ」
「はいはい、ちょっと待って音羽――兄貴。俺、約束したよな? 音羽を幸せにしてやってくれって。できないのなら、俺が音羽をもらうから」
「なっ、なに言ってるのよ!」
翔君が私を恋愛対象として見ていないくらい、普段の関係性から断言できる。私と友人付き合いしている間にも、彼には彼女がいた。
でも、今の言い方はいかにも相手を勘違いさせてしまいそうで、スマホを取り戻そうと必死に腕を伸ばした。
「ああ、来なくていいって。今夜は、俺が責任をもって音羽を自宅まで送るから」
それだけ言うと、一方的に通話を切ってしまった。
「ちょっと、翔君!」
焦って抗議の声を上げる私に、意地悪な笑みを向けてくる。
「兄貴、怒ってたな」
「そんな……」
恐怖に顔が引きつってしまう。
「音羽にじゃなくて、俺に対してだよ。ほら、送っていくからそろそろ出るぞ。急がないと兄貴のやつ、捜索願でも出しかねない勢いだったからさ」
「捜索願!?」
状況がよくわからないが、聞き捨てならない言葉に声を上げた。
「お詫びに、ここは俺のおごりな」
呆然とする私を、翔君が楽しそうに引っ張っていく。
店外に出たすぐに運よくタクシーを確保でき、急いで乗り込んだ。
「碧斗さんと、なにを話したのよ?」
問い詰める口調になるのも仕方がないだろう。翔君にはずいぶんお世話になっているけれど、さすがに勝手に電話をかけたのはだめだ。
「大丈夫。兄貴はただ、音羽を心配しているだけだ」
意味ありげに笑っているが、それ以上話すつもりはないらしい。
マンションに到着し、タクシーを降りる。
「とりあえず、今夜はありがとう」
一秒でも早く碧斗さんの誤解を解きたくて、気持ちが急く。
そんな私をよそに、なぜか翔君まで降りてタクシーを返してしまった。
「ちょっと、翔君?」
「まあ、いいから」
なにがいいのかわからないが、ぐいぐいと背中を押されて渋々エントランスの方を向く。その正面に立つ人影に気づいて、瞬間に体を強張らせた。
10
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる