94 / 113
不穏な足音
23
しおりを挟む
思えば、将来を左右する重大な話だというのに、私の意志は無関係のように結婚の話が進められた。
唯一、翔君は気にかけてくれたが、会社の行く末なんて話を出されたら意見など言えるわけがない。
碧斗さんとの結婚に、最終的に私も了承しているのだから、とやかく言う権利などないのもわかっている。
それでもこんな事態になってしまえば、やるせない気持ちにもなる。
距離をおいて、長い時間をかけて碧斗さんを忘れる努力をしたというのに、姉の身勝手な振る舞いでその努力も無にされてしまった。
もちろん、好きな相手と結婚できるなんて幸運なことだ。
でも、一方的な想いは迷惑になりかねない。
碧斗さんの気持ちを考えれば、たくさんの葛藤があった。
私を受け入れるのは、苦痛ではないのだろうか。
姉と私はあまり似ていないとはいえ、血のつながりがある。だから、私を見るたびに彼女を思い出してしまうかもしれない。
そういう様々なものをのみ込んで、彼と幸せになっていいのだとようやく素直に受け入れられたところだったいうのに……。
これらのすべては、姉のワガママな言動が招いた結果だ。
私の中に渦巻くこの複雑な感情は、一体どこにぶつけたらいいのだろうか。
「やっぱり碧斗さんは……」
それでもまだ、姉が好きなのだろうか。
気持ちがぐちゃぐちゃで、ひとりで抱えるのはもう限界だ。
今夜は時間が空いているという翔君に、助けてほしい一心で連絡を入れたところ、会って話を聞いてくれるという。
迷惑だろうが頼れるのは翔君だけだ。約束の時間に間に合うよう支度をして、マンションを後にした。
「音羽!」
指定された駅の改札を出た早々に名前を呼ばれて、周囲を見回した。
「翔君」
手を振りながら駆け寄ってきた彼は、私の目の前で足を止めて、心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたんだよ、そんな暗い顔して。兄貴となにかあったのか?」
碧斗さんとの結婚が決まったとき、気にかけてくれた彼に大丈夫だと言ったのは私自身だ。
それなのにこんなにこんな事態になってしまったのが情けなくて、そろりと視線を逸らした。
「とりあえず行こう」
この場で聞けるような話ではないと察したのだろう。移動するように促されて、素直に従った。
そうして連れていかれたのは、落ち着いたバーだった。
唯一、翔君は気にかけてくれたが、会社の行く末なんて話を出されたら意見など言えるわけがない。
碧斗さんとの結婚に、最終的に私も了承しているのだから、とやかく言う権利などないのもわかっている。
それでもこんな事態になってしまえば、やるせない気持ちにもなる。
距離をおいて、長い時間をかけて碧斗さんを忘れる努力をしたというのに、姉の身勝手な振る舞いでその努力も無にされてしまった。
もちろん、好きな相手と結婚できるなんて幸運なことだ。
でも、一方的な想いは迷惑になりかねない。
碧斗さんの気持ちを考えれば、たくさんの葛藤があった。
私を受け入れるのは、苦痛ではないのだろうか。
姉と私はあまり似ていないとはいえ、血のつながりがある。だから、私を見るたびに彼女を思い出してしまうかもしれない。
そういう様々なものをのみ込んで、彼と幸せになっていいのだとようやく素直に受け入れられたところだったいうのに……。
これらのすべては、姉のワガママな言動が招いた結果だ。
私の中に渦巻くこの複雑な感情は、一体どこにぶつけたらいいのだろうか。
「やっぱり碧斗さんは……」
それでもまだ、姉が好きなのだろうか。
気持ちがぐちゃぐちゃで、ひとりで抱えるのはもう限界だ。
今夜は時間が空いているという翔君に、助けてほしい一心で連絡を入れたところ、会って話を聞いてくれるという。
迷惑だろうが頼れるのは翔君だけだ。約束の時間に間に合うよう支度をして、マンションを後にした。
「音羽!」
指定された駅の改札を出た早々に名前を呼ばれて、周囲を見回した。
「翔君」
手を振りながら駆け寄ってきた彼は、私の目の前で足を止めて、心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうしたんだよ、そんな暗い顔して。兄貴となにかあったのか?」
碧斗さんとの結婚が決まったとき、気にかけてくれた彼に大丈夫だと言ったのは私自身だ。
それなのにこんなにこんな事態になってしまったのが情けなくて、そろりと視線を逸らした。
「とりあえず行こう」
この場で聞けるような話ではないと察したのだろう。移動するように促されて、素直に従った。
そうして連れていかれたのは、落ち着いたバーだった。
10
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~
松本ユミ
恋愛
夏木美桜(なつきみお)は幼なじみの鳴海哲平(なるみてっぺい)に淡い恋心を抱いていた。
しかし、小学校の卒業式で起こったある出来事により二人はすれ違い、両親の離婚により美桜は引っ越して哲平と疎遠になった。
約十二年後、偶然にも美桜は哲平と再会した。
過去の出来事から二度と会いたくないと思っていた哲平と、美桜は酔った勢いで一夜を共にしてしまう。
美桜が初めてだと知った哲平は『責任をとる、結婚しよう』と言ってきて、好きという気持ちを全面に出して甘やかしてくる。
そんな中、美桜がストーカー被害に遭っていることを知った哲平が一緒に住むことを提案してきて……。
幼なじみとの再会ラブ。
*他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正した完全版になります。
性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる