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不穏な足音
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出かける準備を済ませて、外に出る。
まずは頭を切り替えて、仕事の打ち合わせに向かった。
少し前に聞いていたレストランでのコンサートの件で、三カ月後に予定していた人が急遽無理になってしまい、私に話が回ってきたものだ。
会場となるのはこじんまりとした店で、音がよく響く。ピアノもあるため、伴奏つきでも可能だ。
時間は一時間半ほどで、客はコース料理を食べながら聴くことになる。
誰もが知っている有名な曲を入れつつ、スローテンポで音色を楽しめるものや、超絶技巧で魅せる曲を組み込んだら緩急がついて飽きさせないだろう。
コンサートの合間で演奏曲の説明や楽器の話なども入れながら進めるつもりだが、その場の雰囲気によって楽器に触れてもらうのもいいかもしれない。
楽器に関して考える時間は本当に楽しくて、嫌なことは一時忘れていられた。
「なにか疑問がありましたら、いつでも店の方へお尋ねくださいね。それでは、三カ月後によろしくお願いします」
親切なオーナーに見送られて、その場を後にした。
この後の行動にはまだ迷いがあったが、なんとなく歩きだした先は姉の指定した店だった。
指定されたい店から、少し離れたところで足を止める。
彼女は私が来ると確信して、あえて大通りに面した全面ガラス張りのここを選んだのかもしれない。遠目とはいえ、店内の人の動きはある程度把握できそうだ。
歩道の一角に大きな木が植えられた待ち合わせスペースがあり、ほかの人に紛れるようにして私もその場にとどまった。
気は重いが、店内に向けて目を凝らす。
客はよく入っているようで、向かい合わせに談笑するふたり組みの女性や、ひとりで座って読書をしている人が見えた。
そうして辿った先の窓際の席に、碧斗さんと思われる後ろ姿を見つけてひゅっと息をのむ。
テーブルにはカップがひとつだけ置かれており、彼はスマホを手にしていた。
今はひとりでいるようだが、いかにも人を待っている雰囲気だ。
心臓が、ドクドクと嫌な音を立てる。
胸の前で両手をギュッと握りしめ、じりじりとした時間を過ごす。
そうしてしばらくした後に、彼の前にひとりの女性が立ち止まった。その顔を確認して、握った手により力がこもる。
首回りが深く開いたカーキ色のワンピースは、女性らしい豊かな胸を強調している。体にフィットしたデザインで、スタイルによほど自信がなければ着こなせないだろうが、彼女には本当によく似合っていた。
ダークブラウンに染められたロングの髪には、緩やかなウェーブがかけられている。かっちりと整えず無造作に見えるが、野暮ったさはまったくない。まるで毛先の跳ね方まですべてが計算されているようだ。
彼が顔を上げると同時に、真っ赤に塗られた唇の端がわずかに上がった。
「碧斗さん……」
やってきたのは姉だった。
わかっていたとはいえ、碧斗さんが彼女とふたりで会っている現場を目の当たりにして、胸が苦しくなる。
まずは頭を切り替えて、仕事の打ち合わせに向かった。
少し前に聞いていたレストランでのコンサートの件で、三カ月後に予定していた人が急遽無理になってしまい、私に話が回ってきたものだ。
会場となるのはこじんまりとした店で、音がよく響く。ピアノもあるため、伴奏つきでも可能だ。
時間は一時間半ほどで、客はコース料理を食べながら聴くことになる。
誰もが知っている有名な曲を入れつつ、スローテンポで音色を楽しめるものや、超絶技巧で魅せる曲を組み込んだら緩急がついて飽きさせないだろう。
コンサートの合間で演奏曲の説明や楽器の話なども入れながら進めるつもりだが、その場の雰囲気によって楽器に触れてもらうのもいいかもしれない。
楽器に関して考える時間は本当に楽しくて、嫌なことは一時忘れていられた。
「なにか疑問がありましたら、いつでも店の方へお尋ねくださいね。それでは、三カ月後によろしくお願いします」
親切なオーナーに見送られて、その場を後にした。
この後の行動にはまだ迷いがあったが、なんとなく歩きだした先は姉の指定した店だった。
指定されたい店から、少し離れたところで足を止める。
彼女は私が来ると確信して、あえて大通りに面した全面ガラス張りのここを選んだのかもしれない。遠目とはいえ、店内の人の動きはある程度把握できそうだ。
歩道の一角に大きな木が植えられた待ち合わせスペースがあり、ほかの人に紛れるようにして私もその場にとどまった。
気は重いが、店内に向けて目を凝らす。
客はよく入っているようで、向かい合わせに談笑するふたり組みの女性や、ひとりで座って読書をしている人が見えた。
そうして辿った先の窓際の席に、碧斗さんと思われる後ろ姿を見つけてひゅっと息をのむ。
テーブルにはカップがひとつだけ置かれており、彼はスマホを手にしていた。
今はひとりでいるようだが、いかにも人を待っている雰囲気だ。
心臓が、ドクドクと嫌な音を立てる。
胸の前で両手をギュッと握りしめ、じりじりとした時間を過ごす。
そうしてしばらくした後に、彼の前にひとりの女性が立ち止まった。その顔を確認して、握った手により力がこもる。
首回りが深く開いたカーキ色のワンピースは、女性らしい豊かな胸を強調している。体にフィットしたデザインで、スタイルによほど自信がなければ着こなせないだろうが、彼女には本当によく似合っていた。
ダークブラウンに染められたロングの髪には、緩やかなウェーブがかけられている。かっちりと整えず無造作に見えるが、野暮ったさはまったくない。まるで毛先の跳ね方まですべてが計算されているようだ。
彼が顔を上げると同時に、真っ赤に塗られた唇の端がわずかに上がった。
「碧斗さん……」
やってきたのは姉だった。
わかっていたとはいえ、碧斗さんが彼女とふたりで会っている現場を目の当たりにして、胸が苦しくなる。
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