86 / 113
不穏な足音
15
しおりを挟む
碧斗さんはいつだってプライベートより会社の事情を優先しているというのに、私はどこまでも自分のことばかりだ。
彼が姉と婚約していた頃、私の想いは絶対に叶わないとわかっていた。だから気持ちの整理はつかなくても、姉との結婚を見届けようと腹をくくれた。
でも、これほどまで碧斗さんに近づいてしまったからには、別れを想像しただけで辛くてたまらない。
彼の顔を思い浮かべて、ズキリと胸が痛んだ。
碧斗さんにとっての幸せは、どこにあるのだろうか。
本当は、姉とよりを戻したいと望んでいるのだろうか。
こんな気持ちになるくらいなら、あのままフランスでの生活を続けていればよかったと、もう戻れない日々を嘆く。
この結婚に後悔はなかったはずなのに、姉の存在ですべてが狂わされてしまった。
碧斗さんから別れを告げられたら、私は前を向いて生きていけるだろうか。
気持ちの整理がつかず、よくない想像ばかりする。
どうして姉は彼を手放したのかと、八つ当たりのように考えてしまう。
自分から碧斗さんの婚約者になると言ったからには、姉にはそれを最後まで全うしてほしかった。
私がその立場になるかもしれないと、微塵も期待を抱かせない関係でいてくれたらよかったのにと恨みがましくなる。
姉の心を無視した考えだが、ここまで巻き込まれてしまったのだから仕方がないだろう。
頭の中はぐちゃぐちゃで、精神的にすっかり疲れてしまった。
なにをするでもなく、しばらくぼんやりしていたところに碧斗さんからメッセージが届いた。
【今夜は遅くなりそうだ。先に寝ていてほしい】
もとから夕飯はいらないと言われている。
姉からあんな話を聞かされて食欲はすっかり失せてしまい、水だけを口にした。
いつもならできる限り碧斗さんの帰宅を起きて待っているが、今夜はそんな気力もない。
お風呂はシャワーだけで手早く済ませて、いつもよりずいぶん早い時間にベッドにもぐり込んだ。
眠気はすぐには訪れず、何度も寝返りを打つ。
なにも考えないように努めているのに、ふと姉との会話や碧斗さんとの関係について悩んでしまう。
なんだか無性に心細くなり、すっかり当たり前になっていた彼の体温を思いだそうとしても、上手くいかなかった。
「はあ」
静かすぎる空間が、ますます私を不安にする。
重いため息をつきながら、いつも碧斗さんが横たわる辺りをそっとなでた。
彼が姉と婚約していた頃、私の想いは絶対に叶わないとわかっていた。だから気持ちの整理はつかなくても、姉との結婚を見届けようと腹をくくれた。
でも、これほどまで碧斗さんに近づいてしまったからには、別れを想像しただけで辛くてたまらない。
彼の顔を思い浮かべて、ズキリと胸が痛んだ。
碧斗さんにとっての幸せは、どこにあるのだろうか。
本当は、姉とよりを戻したいと望んでいるのだろうか。
こんな気持ちになるくらいなら、あのままフランスでの生活を続けていればよかったと、もう戻れない日々を嘆く。
この結婚に後悔はなかったはずなのに、姉の存在ですべてが狂わされてしまった。
碧斗さんから別れを告げられたら、私は前を向いて生きていけるだろうか。
気持ちの整理がつかず、よくない想像ばかりする。
どうして姉は彼を手放したのかと、八つ当たりのように考えてしまう。
自分から碧斗さんの婚約者になると言ったからには、姉にはそれを最後まで全うしてほしかった。
私がその立場になるかもしれないと、微塵も期待を抱かせない関係でいてくれたらよかったのにと恨みがましくなる。
姉の心を無視した考えだが、ここまで巻き込まれてしまったのだから仕方がないだろう。
頭の中はぐちゃぐちゃで、精神的にすっかり疲れてしまった。
なにをするでもなく、しばらくぼんやりしていたところに碧斗さんからメッセージが届いた。
【今夜は遅くなりそうだ。先に寝ていてほしい】
もとから夕飯はいらないと言われている。
姉からあんな話を聞かされて食欲はすっかり失せてしまい、水だけを口にした。
いつもならできる限り碧斗さんの帰宅を起きて待っているが、今夜はそんな気力もない。
お風呂はシャワーだけで手早く済ませて、いつもよりずいぶん早い時間にベッドにもぐり込んだ。
眠気はすぐには訪れず、何度も寝返りを打つ。
なにも考えないように努めているのに、ふと姉との会話や碧斗さんとの関係について悩んでしまう。
なんだか無性に心細くなり、すっかり当たり前になっていた彼の体温を思いだそうとしても、上手くいかなかった。
「はあ」
静かすぎる空間が、ますます私を不安にする。
重いため息をつきながら、いつも碧斗さんが横たわる辺りをそっとなでた。
10
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる