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不穏な足音

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 碧斗さんはいつだってプライベートより会社の事情を優先しているというのに、私はどこまでも自分のことばかりだ。

 彼が姉と婚約していた頃、私の想いは絶対に叶わないとわかっていた。だから気持ちの整理はつかなくても、姉との結婚を見届けようと腹をくくれた。

 でも、これほどまで碧斗さんに近づいてしまったからには、別れを想像しただけで辛くてたまらない。

 彼の顔を思い浮かべて、ズキリと胸が痛んだ。

 碧斗さんにとっての幸せは、どこにあるのだろうか。
 本当は、姉とよりを戻したいと望んでいるのだろうか。

 こんな気持ちになるくらいなら、あのままフランスでの生活を続けていればよかったと、もう戻れない日々を嘆く。
 
 この結婚に後悔はなかったはずなのに、姉の存在ですべてが狂わされてしまった。
 碧斗さんから別れを告げられたら、私は前を向いて生きていけるだろうか。

 気持ちの整理がつかず、よくない想像ばかりする。
 どうして姉は彼を手放したのかと、八つ当たりのように考えてしまう。

 自分から碧斗さんの婚約者になると言ったからには、姉にはそれを最後まで全うしてほしかった。
 私がその立場になるかもしれないと、微塵も期待を抱かせない関係でいてくれたらよかったのにと恨みがましくなる。

 姉の心を無視した考えだが、ここまで巻き込まれてしまったのだから仕方がないだろう。

 頭の中はぐちゃぐちゃで、精神的にすっかり疲れてしまった。
 なにをするでもなく、しばらくぼんやりしていたところに碧斗さんからメッセージが届いた。

【今夜は遅くなりそうだ。先に寝ていてほしい】

 もとから夕飯はいらないと言われている。
 姉からあんな話を聞かされて食欲はすっかり失せてしまい、水だけを口にした。

 いつもならできる限り碧斗さんの帰宅を起きて待っているが、今夜はそんな気力もない。
 お風呂はシャワーだけで手早く済ませて、いつもよりずいぶん早い時間にベッドにもぐり込んだ。

 眠気はすぐには訪れず、何度も寝返りを打つ。
 なにも考えないように努めているのに、ふと姉との会話や碧斗さんとの関係について悩んでしまう。

 なんだか無性に心細くなり、すっかり当たり前になっていた彼の体温を思いだそうとしても、上手くいかなかった。

「はあ」

 静かすぎる空間が、ますます私を不安にする。
 重いため息をつきながら、いつも碧斗さんが横たわる辺りをそっとなでた。
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