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不穏な足音
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ようやくデザートが運ばれてきたが、もう食べる気力はなかった。小さくため息をついて、申し訳ないが少し脇に避けて残す意思を示す。
「お話が終わりでしたら、私たちは帰らせてもらいます」
私の動きを察した碧斗さんが、母に言い渡す。
「あら。謝罪がまだだわ――ほら、一嘩」
匙を置いた姉が、居住まいを正して碧斗さんへ向き直る。
メイクをしっかり施した姉は年齢を重ねても変わらず綺麗で、私の不安を煽る。
スタイルも以前のまま変わらずキープしており、本当に理想的だと思う。
碧斗さんに向けた姉の視線が、どうしても謝罪をするようなものには見えない。
深いと不安に、無意識に眉間にしわが寄る。
私の存在を意識から完全に締め出してしまったのか、姉はこちらをいっさい見ようとしない。
「碧斗さん」
ふたりは長く婚約関係にあったのだから、彼を名前で呼ぶのは当時からの癖かもしれない。
けれど私は、そんな些細なところにも嫉妬心を抱いてしまう。
「勝手をして、本当にごめんなさいね。あの頃の私は、どうかしていたみたいなの」
言い訳にならない言い分に、苛立ちが募る。婚約破棄をあまりにも軽い気持ちで起こしたように聞こえて、不愉快でしかない。
そのせいで碧斗さんがどれだけ苦しんだのか、姉は一度でも考えただろうか。
おまけに彼は、好きでもない私と結婚せざるを得なくなった。そうしていなければ、小野寺や波川屋にどれだけの損失を与えていたか。
「もう済んだ話ですから」
そっけなく、けれどきっぱりと言った碧斗さんに、姉はわずかに目を細めた。
彼が〝許す〟と言わなかったのは、なにか考えがあってのことか。おそらく姉も、そこに気づいたのだろう。
「やだ、碧斗さんったら。私たちは家族になるのよ。これから関係の改善をしたいと思っているの。だから、お互いに歩み寄りましょうよ」
こんな状況にあるのに、姉の態度はあまりにも馴れ馴れしい。
それに、〝家族〟という言い回しがどうにも引っかかってしまう。
被害を受けたのは碧斗さんの方なのに、お互いに歩みよるなんていかにも傲慢だ。
彼が姉を許さなければ修復もできないのに、ここまで来ても姉は自分が優位であるような態度を取り続けている。
「〝義理の〟家族に、ですね。謝罪はもうけっこうですよ。そちらのお話は、たしかに聞きました。私と音羽は、これで失礼します」
姉たちがそれ以上なにかを言う前に、碧斗さんが素早く立ち上がる。
それから私にもそうするように促して、早々とその場を後にした。
「お話が終わりでしたら、私たちは帰らせてもらいます」
私の動きを察した碧斗さんが、母に言い渡す。
「あら。謝罪がまだだわ――ほら、一嘩」
匙を置いた姉が、居住まいを正して碧斗さんへ向き直る。
メイクをしっかり施した姉は年齢を重ねても変わらず綺麗で、私の不安を煽る。
スタイルも以前のまま変わらずキープしており、本当に理想的だと思う。
碧斗さんに向けた姉の視線が、どうしても謝罪をするようなものには見えない。
深いと不安に、無意識に眉間にしわが寄る。
私の存在を意識から完全に締め出してしまったのか、姉はこちらをいっさい見ようとしない。
「碧斗さん」
ふたりは長く婚約関係にあったのだから、彼を名前で呼ぶのは当時からの癖かもしれない。
けれど私は、そんな些細なところにも嫉妬心を抱いてしまう。
「勝手をして、本当にごめんなさいね。あの頃の私は、どうかしていたみたいなの」
言い訳にならない言い分に、苛立ちが募る。婚約破棄をあまりにも軽い気持ちで起こしたように聞こえて、不愉快でしかない。
そのせいで碧斗さんがどれだけ苦しんだのか、姉は一度でも考えただろうか。
おまけに彼は、好きでもない私と結婚せざるを得なくなった。そうしていなければ、小野寺や波川屋にどれだけの損失を与えていたか。
「もう済んだ話ですから」
そっけなく、けれどきっぱりと言った碧斗さんに、姉はわずかに目を細めた。
彼が〝許す〟と言わなかったのは、なにか考えがあってのことか。おそらく姉も、そこに気づいたのだろう。
「やだ、碧斗さんったら。私たちは家族になるのよ。これから関係の改善をしたいと思っているの。だから、お互いに歩み寄りましょうよ」
こんな状況にあるのに、姉の態度はあまりにも馴れ馴れしい。
それに、〝家族〟という言い回しがどうにも引っかかってしまう。
被害を受けたのは碧斗さんの方なのに、お互いに歩みよるなんていかにも傲慢だ。
彼が姉を許さなければ修復もできないのに、ここまで来ても姉は自分が優位であるような態度を取り続けている。
「〝義理の〟家族に、ですね。謝罪はもうけっこうですよ。そちらのお話は、たしかに聞きました。私と音羽は、これで失礼します」
姉たちがそれ以上なにかを言う前に、碧斗さんが素早く立ち上がる。
それから私にもそうするように促して、早々とその場を後にした。
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