【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

波野雫

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不穏な足音

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「少し前から、総菜の持ち帰り専門店で波川屋の和菓子も扱うようになったんだが、それがなかなか好評で」

 波川屋の業績については気になっていたが、私は仕事にまったくかかわっていないためなんとなく両親にも聞きづらかった。
 それを気遣ってか、碧斗さんは時折、会社の様子を噛み砕いて教えてくれる。

「一緒に並んでいたら、食後のデザートについ買いたくなっちゃいそう」

 仕事帰りに店に立ち寄った人が、癒しを求めてつい甘味に手を伸ばす姿が容易に思い浮かぶ。

 遅い時間帯に食べると想定すると、洋菓子よりもカロリーが低い和菓子は罪悪感が小さくなりそうだ。
 私だったら、確実に誘惑に負けて食べてしまうに違いない。

 一方通行な協力ではなく、波川屋の店舗でも小野寺の商品を扱うようになった。

 小野寺の経営する茶房で提供しているお茶の葉の生産も、一部は自社で手掛けており、質の高さには定評がある。それを波川屋でも販売するようになった。
 さらに、波川屋には茶房で扱っていない限定商品も置いてあり、客の反応も上々だと碧斗さんが教えてくれた。

 洋風の要素を取り入れた波川屋の商品に合わせて、小野寺は紅茶の提供にも乗り出したという。

 父の後を継ぐ予定の従兄は今、小野寺の茶葉そのものを使った商品を作りたいと奮闘しているらしい。

 両社はもう数年にわたって関係を築いているが、こうして今でもお互いのよさを生かした企画を進めている。
 事業の幅はますます広がり、それを私に話す碧斗さんの表情は生き生きとしていた。

 姉の軽はずみな行動でこれらのすべてが白紙になっていたかもしれないと、想像しただけで怖くなる。
 今の波川屋があるのは、間違いなく碧斗さんが救いの手を差し伸べてくれたおかげだ。

「碧斗さん、波川屋のために尽力してくれて、本当にありがとうございます」

 畏まって礼を伝える私に、彼が苦笑する。

「大事な奥さんの実家を守るのは、夫として当然だろ」

 姉にあんな仕打ちを受けてもなお、彼はそんなふうに言ってくれる。だからこそ私は、碧斗さんにとことん尽くすと決めている。

 私も仕事をはじめるとはいえ、決して家庭を蔑ろにするつもりはない。碧斗さんが快適に過ごせる環境を作ることこそが、今の私の最優先事項だ。
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