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甘すぎる新婚生活
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「そ、そそ、それは……その。えっと、善処、します」
「いつかは子どもができたらいいと思うが、とりあえずしばらくの間はお互いを深く知ることを優先したい」
うろたえる私にかまわず、碧斗さんが言う。
「私も、その、まずは新しい生活に慣れたいというか……」
生活というよりも碧斗さんの存在に慣れていきたい、という本音は伝わっただろうか。
すでに彼とは深い仲になったとはいえ、許されるならば子どもを持つまでにもう少し時間がほしい。
結婚までがあまりにも急な話だったのもあり、さすがにそこまでの心の準備はできていない。
「よかった。拒否されなくて」
「そ、そんな、拒否だなんて」
ぶんぶんと首を左右に振る。
「その、跡継ぎのこともあるでしょうし……」
「俺は、それだけのために子どもがほしいわけじゃないよ」
それはつまり、家の事情に関係なく私との子を望んでくれているというのか。
「いつか、音羽との子ができたらうれしい」
本当に?と見つめる私に、笑みを深めた碧斗さんがうなずき返してくれた。
案内はこれで終わりだと、リビングに促される。
碧斗さんの後ろ姿を見つめながら、言われたばかりの言葉を噛みしめていた。
ソファーに隣り合って座り、碧斗さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら話をする。
「新婚旅行は、どこに行きたい?」
「えっと」
結婚式の日取りが決まっていたくらいだから、新婚旅行も予定されていそうなものだ。
それとも、婚約が破棄された時点ですぐさまキャンセルしたのだろうか。
「あの、決まっていたんじゃないですか?」
怪訝な顔は隠せていないだろう。
気まずさもあってたどたどしくなる私に、碧斗さんが苦笑した。
「気を悪くしないで聞いてほしい。これまで一嘩さんとの接触は必要最低限で、新婚旅行などもってのほかという状態だったんだ。彼女は結婚後に休みを取って気晴らしにどこか海外へ行く予定でいたみたいだが、それはあくまで俺とではない」
さすがに姉も周囲の目を気にして、結婚後は数日の休みを取っていたのだろう。
まさかほかの男性と旅行へ行くとは思えないが、ひとり旅もしくは友人と行くつもりだったのだろうか。
姉と碧斗さんの仲がよくわからず、混乱する。
「俺との間には、もとからなんの計画もなかったよ」
仲が上手くいっていなかったと聞かされても、そこまで冷めきっていたなんて思えなかった。
それでもなお、碧斗さんは姉をつなぎとめておきたかったのかもしれない。
想像とかけ離れた状況が上手くのみ込めず、うなずき返すにとどめる。
そんな関係にあったにもかかわらず、碧斗さんは新生活をスタートさせるためにこれほど豪華な部屋を用意していた。それは、彼の中に姉に対する想いがまだあったからなのだろうか。
気にはなるものの、過去を掘り返されたくないのだろうと、疑問は心の内に押し留めた。
「いつかは子どもができたらいいと思うが、とりあえずしばらくの間はお互いを深く知ることを優先したい」
うろたえる私にかまわず、碧斗さんが言う。
「私も、その、まずは新しい生活に慣れたいというか……」
生活というよりも碧斗さんの存在に慣れていきたい、という本音は伝わっただろうか。
すでに彼とは深い仲になったとはいえ、許されるならば子どもを持つまでにもう少し時間がほしい。
結婚までがあまりにも急な話だったのもあり、さすがにそこまでの心の準備はできていない。
「よかった。拒否されなくて」
「そ、そんな、拒否だなんて」
ぶんぶんと首を左右に振る。
「その、跡継ぎのこともあるでしょうし……」
「俺は、それだけのために子どもがほしいわけじゃないよ」
それはつまり、家の事情に関係なく私との子を望んでくれているというのか。
「いつか、音羽との子ができたらうれしい」
本当に?と見つめる私に、笑みを深めた碧斗さんがうなずき返してくれた。
案内はこれで終わりだと、リビングに促される。
碧斗さんの後ろ姿を見つめながら、言われたばかりの言葉を噛みしめていた。
ソファーに隣り合って座り、碧斗さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら話をする。
「新婚旅行は、どこに行きたい?」
「えっと」
結婚式の日取りが決まっていたくらいだから、新婚旅行も予定されていそうなものだ。
それとも、婚約が破棄された時点ですぐさまキャンセルしたのだろうか。
「あの、決まっていたんじゃないですか?」
怪訝な顔は隠せていないだろう。
気まずさもあってたどたどしくなる私に、碧斗さんが苦笑した。
「気を悪くしないで聞いてほしい。これまで一嘩さんとの接触は必要最低限で、新婚旅行などもってのほかという状態だったんだ。彼女は結婚後に休みを取って気晴らしにどこか海外へ行く予定でいたみたいだが、それはあくまで俺とではない」
さすがに姉も周囲の目を気にして、結婚後は数日の休みを取っていたのだろう。
まさかほかの男性と旅行へ行くとは思えないが、ひとり旅もしくは友人と行くつもりだったのだろうか。
姉と碧斗さんの仲がよくわからず、混乱する。
「俺との間には、もとからなんの計画もなかったよ」
仲が上手くいっていなかったと聞かされても、そこまで冷めきっていたなんて思えなかった。
それでもなお、碧斗さんは姉をつなぎとめておきたかったのかもしれない。
想像とかけ離れた状況が上手くのみ込めず、うなずき返すにとどめる。
そんな関係にあったにもかかわらず、碧斗さんは新生活をスタートさせるためにこれほど豪華な部屋を用意していた。それは、彼の中に姉に対する想いがまだあったからなのだろうか。
気にはなるものの、過去を掘り返されたくないのだろうと、疑問は心の内に押し留めた。
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