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甘すぎる新婚生活

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 結婚式から一夜が明けて、今日からふたりで暮らすマンションへ連れて来られた。
 ここはもともと彼がひとり暮らしをしていた部屋で、私が移り住む形になる。

 本来なら結婚前に一度は足を運んでおきたかったが、碧斗さんの希望で部屋に少し手を入れていたらしく、訪問は叶わなかった。
 結局、中へ入るのはこれが初めてだ。

 ここは碧斗さんの職場からも近い上に交通の利便もよく、オシャレで人気のある地域だ。
 家賃は相当高いのだろうと恐る恐る尋ねたところ、分譲だというから驚いた。

 三十階に位置する3LDKの部屋は、ひとりで暮らすにはどうにもゆとりがありすぎる。
 広々としたリビングスペースだけで生活ができてしまいそうなほどゆったりしており、その豪華さに驚愕した。

 室内はダークブラウンのインテリアでまとめられており、穏やかな雰囲気が彼らしくて心地よい。
 ただ、この贅沢な広さに慣れるには少し時間がかかりそうだ。

「こんなに広い部屋だと、管理が大変じゃないですか?」

 家事はひと通りできると話していた碧斗さんだが、彼が多忙の身であるのはこの数カ月の様子で察している。もう少しコンパクトな部屋の方が、碧斗さんとしては都合よかったのではないか。

「結婚すれば、これくらいの広さは必要かと思って」

 首をひねる私に、碧斗さんは気まずげな笑みを浮かべながらそう教えてくれた。

 聞けば彼はこの部屋は半年前に購入したばかりで、実際に住みはじめてまだそれほど経っていないという。

 当然、姉との暮らしを想定して選んだのだろう。
 もしかしたら姉自身も、新居を探すのに関わっていたのかもしれない。
 ゆとりのある部屋数は、子どもができたところまで考えていたと思えば納得だ。

 そんな想像に、ズキリと胸が痛んだ。

「掃除は、私に任せてくださいね!」

 沈んだ気持ちを悟られないようにあえて明るく振る舞ってみせた私に、碧斗さんは「ありがとう」と穏やかに返してくれる。

 結婚相手が急に変更となり、苦しんでいるのは碧斗さんだって同じだ。いや、姉に裏切られた彼の苦しみは私よりも大きいはず。

 碧斗さんはそれを私に感じさせないようにしてくれるが、不意に見せる切ない表情はきっと姉に対する想いの表れなのだろう。

 碧斗さんは、私を恋愛対象として見ているわけではない。仕方なく結婚したのだということを忘れてはいけない。

 そうでなければ碧斗さんの優しさに甘えて、図々しくも彼の心まで求めてしまいそうになる。そんなの、彼をますます追い詰めてしまうだけだ。

 自分を犠牲にしてまで波川を救ってくれた碧斗さんに対して、私ができるのは彼が快適に暮らせるように支えていくことだろう。
 碧斗さんの望みは全力で叶えようと、密かに誓っている。
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