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甘すぎる新婚生活

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「ああ、音羽。なんて綺麗なんだ」

 演奏会など人前に立つ仕事をしていたのもあり、それなりに体型には気遣っていた。

 けれど碧斗さんが一緒にいたのは、あの美人でスタイル抜群の姉だ。
 彼女と比べたら私なんて魅力に欠けるのは当然で、それに気づいた途端に熱くなっていった体が急激に冷めていく。慌てて手で胸もとを覆った。

「だめだよ、音羽」

 私の手をどけようとする彼を、首を左右に振って拒否する。

「わ、私なんて、姉に比べたら胸は小さいし……」

 途端に碧斗さんの顔が不快にゆがむ。
 余計なことを言ってしまったと気づき、恐怖と申し訳なさに涙が浮かんだ。

「ああ。違うんだ、音羽」

 こぼれかけた雫を、彼の唇が優しく吸い取っていく。
 それから碧斗さんは、まっすぐに私を見つめた。

「君はこんなに綺麗なんだ。ほかの誰かと比べる必要なんてない」

「でも」と言いかけた私の口もとに、彼の人差し指が当てられる。

「信じてもらえないかもしれないが、俺は君の姉を抱いたことは一度もない。口づけすらしていない」

「え?」

 関係づくりが上手くいかなかったとは言っていたが、それはいつ頃からだろうか。
 最初はきっと歩み寄る努力をしていただろうし、姉が気安げに彼の腕を引く姿を何度か目にしている。
 そんなふたりが私には恋人同士に見えていたし、その距離感に苦しめられていた。

 それに、姉は家を空けることが何度もあった。
 私は、てっきり碧斗さんと過ごしているものだと思い込んでいた。

「前にも言ったように、彼女とはどうにも気が合わなかったんだ。何回か食事や映画に出かけただけで、深い付き合いはしていない」

 信じられず碧斗さんを凝視するが、彼はさらに腕を掴まれたことはあっても手すらつないでいないと言う。

「そんな関係だったとはいえ、一応俺は婚約者のいる立場にあった。だから、彼女と婚約してからは誰にも触れていない」

 驚きに目を見開く私に苦笑しながら、碧斗さんが頬をなでてくる。

「俺も、音羽と同じくらい緊張している」

 そっと掴んだ私の手を、自身の胸もとに当てさせる。トクトクと感じる速い鼓動が、彼の話は本当だと肯定しているようだ。

「信じてくれたか?」

 碧斗さんは嘘を言う人ではない。

 健全な成人男性が何年も女性に触れないなんてあるだろうかとも思うが、それは人それぞれだ。
 彼の真摯な視線に、偽りは見当たらなかった。

「はい」

 なんとかそう返すと、碧斗さんは安堵の笑みを浮かべた。
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