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それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

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 そんな折に、一嘩が俺に対して恰好の発言をしてくれた。

『あーあ。あなたの婚約者の座なんて、音羽に譲っておけばよかった』

 そう言い切った理由は心底どうでもいいが、言質はとった。
 一嘩自身がそれを望んでいるのなら、実行させてもらっても問題ないだろう。

 音羽の意志を確認しないまま話を進めるのは申し訳ないが、心がついてくるのは後になってもかまわない。
 彼女が俺のもとへ来てくれるのなら、なによりも大切にして必ず幸せにすると誓う。

 婚約の解消を切りだす頃合いを見計らいながら、素知らぬ顔で結婚の日取りを定めて式の準備に取り掛かった。
 そうして外堀を埋めてしまえば、取りやめるのが困難になると踏んでのことだ。

 結婚に乗り気でない一嘩も、ドレスや指輪の話になると大いに口を出してくる。あえてなにも言わず好きにさせておけば、これでもかというほど贅を凝らした選択ばかりしていた。

 これまで、よほど周囲の男にちやほやされてきたのだろう。一嘩は、それらはすべて夫側が支払って当然という態度だ。

『日程も式場もあなたの家の都合に譲歩したんだから、これくらい私の意見も聞いてよ』

 それが一嘩の言い分らしい。
 彼女の図々しさは出会った当初と変わらず、苛立ちを通り越して呆れてしまうほどだ。

 初回こそふたりそろって打ち合わせに出向いていたが、後はひとりで話を進めていった。

 意図的に選んだ式場は、学生の頃からの友人の父親が総責任者を務めているところだ。友人自身も跡継ぎとして働いているため、いろいろと都合がよい。

 式場をこちらで指定したのが一嘩には不満だったようだが、実際には自分好みだったようですぐに納得していた。

 友人のよしみで、俺たちの担当には彼の妻がついてくれた。
 彼ら夫婦にはこの婚約についてある程度明かしており、新婦が入れ替わるだろうとも伝えてある。

 もちろん、かなり驚かれた。
 けれど、一嘩が決定的に自分とは合わない人だとこぼしていた上に、彼女の横暴な振る舞いも目にして理解をしてくれた。

 一嘩は、自身を着飾る以外の準備にはそれほど興味を示さなかった。彼女が面倒がるのを幸いに、俺の都合の良いように決めていく。

 そうして、いよいよ一嘩に婚約の解消を申し出ようと決めたタイミングで、まさか彼女の方からそれを申し出られるとは予想外だった。

 驚きすぎて呆然とした俺に、一嘩は満足そうな顔になる。
 おそらく彼女は、俺がショックを受けているとでも思ったのだろう。

 どうやら一嘩は、付き合っていた相手に本気になってしまい、そちらと結婚したいらしい。
 ふたりの間で具体的な話が出ているかは知らないが、絶好の機会を逃すはずがない。二つ返事で了承した。

 一嘩はその後、まるで駆け落ちするように実家を出たらしいが、俺には関係のない話だ。
 むしろ、今後の予定を邪魔されずに済むのは好都合。

 それからすぐに、一嘩が不在のまま両家の話し合いの場を設けた。

 音羽との婚約を言い出した俺に、家族は懐疑的な目を向けてきた。
 翔はさらに思うところがあったようで、ずいぶん挑発的な言葉をかけられたが、事は会社に関連しているだけにそこまで強くは出てこない。

 波川側が反対するはずもなく、俺と音羽の婚約はすぐさま決定した。

 戸惑う音羽には申し訳ないが、手に入れた以上は手放すつもりは微塵もない。

 これから彼女をどう甘やかしていこうか。
 つい緩みそうになる口もとを引きしめながら、音羽と暮らす準備を着々と進めていった。
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