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それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

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 おそらく、一度でもいいから小野寺が波川屋の手助けをしたという実績を残しておけば、祖父も父もとりあえず満足するだろう。

 小野寺にとっても波川屋と事業提携を結ぶのはそれほど悪い話ではない上に、茶房の案件はすでに動きだしている。これだけは軌道に乗せられるように注力したい。

 事業を止めることで小野寺にも損害が出る段階まできているとなれば、婚約とは関係なく進めてしまった方がいいと押し切るのも可能だ。
 話が後戻りできないほど進んだ時点で、一嘩との婚約を白紙にすると密かに決めていた。

 祖父の考えているらしい別の案件は立ち消えになるかもしれないが、そこは仕方がない。
 娘の育て方に問題があった波川に非があるのだと、一嘩の様子を目にすればさすがに納得するだろう。
 そう目論んで、念のために彼女の際立った言動について記録に残すことにした。

 さらに、大体的な婚約披露も行わない方向に父らを誘導した。彼女はまだ学生であることを強く押せば、すぐさま納得してくれた。

 周囲に婚約の話を積極的にしないようにも徹底した。
 当然、相手の名前もあえて明言せず、必要な場面では〝波川のお嬢さんと〟と明確にしない。

 婚約者としての交流は欠かさなかったが、そんな思惑があって片手間な付き合いになっていたのは否定しない。
 それでも礼儀は尽くしたつもりだったし、常識的な交流を心掛けていた。

『碧斗さんって、つまらない人ね』

 それは婚約から数カ月が経った頃に、一嘩から言われた言葉だ。
 連れて行ってほしいと請われていた、学生が利用するにしては高級なレストランで、向かい合わせに座った早々に彼女が言い放ったのはあまりに印象的だった。

『もっといろいろ出かけたいのに、食事か映画くらいしか連れて行ってくれない。生真面目すぎて、おもしろみがないわね』

 婚約者とはいえ、まだ学生の彼女とどんな交際をしろというのだという疑問は、懸命にも口にしなかった。聞いたら最後、要求はますますエスカレートしていきそうだ。

 わざわざ時間を割いてまで、気が乗らない相手を喜ばせたいとも思えないのだから仕方がない。
 すでに彼女と結婚するつもりはなくなっていたし、自分をどう見られようともかまわなかった。

『音羽のことだってかまう必要ないのに、会うたびに話し込んでいるわよね?』

 少し前の出来事を蒸し返すあたり、彼女にとってはかなり気に食わないことだったのだろう。

『音羽ちゃんは義妹になるのだから、会えば挨拶くらいさせてもらうよ』

『放っておけばいいのよ』

 自分が一番でないと嫌だ。実の妹とはいえ、ほかの女を気に掛けるなんて許せない。
 一嘩の表情や言葉の端々に、横暴な気配を感じ取ったのはおそらく気のせいではないはず。

 そんな独りよがりな一嘩の振る舞いに、彼女と自分とではどうあがいてもわかり合えないのだと、ますます溝が深まっていった。
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