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身代わりの結婚

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 時間は慌ただしく過ぎていき、あっという間に結婚式の日がやってきた。

「音羽、すっごい綺麗じゃん!」

 式がはじまる少し前に、新婦の控室を訪ねてきてくれたのは翔君だ。
 ドレス姿の私を見て、翔君が手放しで絶賛してくれる。

「ありがとう」

 お世辞だとわかっていても、褒められるのはうれしいものだ。それに彼らしいストレートな表現が、張り詰めていた空気を和らげてくれる。

「急だったのに、碧斗さんがセミオーダーで用意してくれたの」

 立ち上がって、裾をひらりと振ってみせた。

 フランスでの生活を終えて、帰国後すぐに碧斗さんとドレスの打ち合わせに赴いた。
 自分になにが似合うのかわからない私に代わって、デザインは彼が中心となって選んだ。

 私に配慮したのか、碧斗さんは姉のドレスについては言葉を濁しており、なにも明かしてくれない。

 代わりに母が、あれこれ話してくれた。
 どうやら姉は、本人の希望でフルオーダーの豪華なドレスを作っていたようだ。それはいかにも彼女らしい振る舞いで、そうまでしたものを簡単に手放してしまったことがどうしても理解できなかった。

 ついでに言えば、この時期の式を強く希望したのも姉だった。本当はクリスマス当日にこだわっていたようだが、さすがにそれは招待客への配慮に欠けるだろうと周囲が止めたらしい。

 自分本位な身勝手な考えには、ため息しか出ない。

 それから、碧斗さんは指輪も新たに用意してくれた。姉の受け取るはずだったもののサイズを直せばいいという私の主張は、彼によって却下されている。

 ドレスも指輪も、碧斗さんはずいぶん熱心に考えてくれた。
 姉に非があるのだから、彼女にかかった費用はもちろん波川家が負担するのだが、問題はお金で解決できないものもあるということだ。

 彼がそこに費やした時間だとか想いだとか、目に見えない犠牲はたくさんある。
 こんな事態になってしまい、碧斗さんはどんな気持ちでいるのかと不安が付きまとう。

「音羽、後悔はないか?」

 一歩私に近づいた翔君が、私の本音を探るように顔を覗き込んでくる。
 気にかけてくれるのはありがたいが、それは碧斗さんにこそ尋ねるべきものだ。

 翔君を心配させないように、明るい笑みを浮かべてみせる。

「まったく。後悔なんて、していないよ」

 好きだという気持ちは碧斗さんに打ち明けていないが、私は彼に望まれて結婚するのだ。
 政略的に求められたにすぎなくてもかまわない。私は、碧斗さんの傍にいられるだけで十分に幸せだ。

 迷いはないと伝えるように翔君をじっと見つめ返していたところで、扉をノックする音が響き視線をそちらへ移す。

「はい」

 入ってきたのは、碧斗さんだった。
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