【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

波野雫

文字の大きさ
26 / 113
身代わりの結婚

しおりを挟む
「音羽さんが新たに碧斗の婚約者になるということで、話をまとめていいか?」

 おじ様が、全員を見回して確認する。
 姉との話に納得はしていないだろうが、父との縁が切れずに済んだことには安堵してくれているようだ。

 おば様はまだなにか言いたげな表情をしていたが、いっさい口を開きはしなかった。間違いなく、彼女にとっては不本意な結末なのだろう。

 姉のしでかしたことを考えれば、その妹を快く受け入れられるわけがないのは当然だ。
 それでも碧斗さんと結婚すれば家族になるのだから、少しでもよい関係を築いていきたい。そう願うのは、身勝手すぎるだろうか。
 時間はかかるかもしれないが、関係改善の努力を怠るつもりはない。

「うちとしては、ありがたい話です。よろしくお願いします」

 父の声にも安堵の色が滲む。その隣で母も、小さく何度かうなずいた。

「音羽さんも?」

 私に直接確認をしなかった両親に代わって、おじ様が問いかけてくる。それに対してきっぱりうなずき返した。

「はい」

 姉の代わりに、碧斗さんと結婚する。
 波川屋の従業員を守るためにも、この話に反対などできようもなかった。

 それに、碧斗さんは私の初恋の相手でどれだけ時間が経っても忘れられなかった人だ。
 裏切った女性の妹だというだけで拒絶されても仕方がないのに、碧斗さんは私を望んでくれた。彼にとってそれが会社を守るための申し出でしかなかったとしても、私はかまわない。

「それでは、細かい話は後日あらためて詰めるとして、今日のところはこの辺りで」

 おじ様の言葉に、両親の肩から力が抜けるのがわかる。
 私も密かに息を吐きだしたタイミングで、碧斗さんが声をあげた。

「この後、音羽さんとふたりで話をしたのですが、かまいませんか?」

「え、ああ。もちろんです」

 彼の申し出に父が反対するわけがなく、すぐさま同意する。

「帰りは責任をもって、ご自宅まで送りますので」

 話し合いがお開きとなり、両親が帰り支度を整える。
 ここへ来るときは当然ながら深刻な表情をしていたふたりだが、ようやく緊張が解けたようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。 再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...