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身代わりの結婚

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「音羽さんが新たに碧斗の婚約者になるということで、話をまとめていいか?」

 おじ様が、全員を見回して確認する。
 姉との話に納得はしていないだろうが、父との縁が切れずに済んだことには安堵してくれているようだ。

 おば様はまだなにか言いたげな表情をしていたが、いっさい口を開きはしなかった。間違いなく、彼女にとっては不本意な結末なのだろう。

 姉のしでかしたことを考えれば、その妹を快く受け入れられるわけがないのは当然だ。
 それでも碧斗さんと結婚すれば家族になるのだから、少しでもよい関係を築いていきたい。そう願うのは、身勝手すぎるだろうか。
 時間はかかるかもしれないが、関係改善の努力を怠るつもりはない。

「うちとしては、ありがたい話です。よろしくお願いします」

 父の声にも安堵の色が滲む。その隣で母も、小さく何度かうなずいた。

「音羽さんも?」

 私に直接確認をしなかった両親に代わって、おじ様が問いかけてくる。それに対してきっぱりうなずき返した。

「はい」

 姉の代わりに、碧斗さんと結婚する。
 波川屋の従業員を守るためにも、この話に反対などできようもなかった。

 それに、碧斗さんは私の初恋の相手でどれだけ時間が経っても忘れられなかった人だ。
 裏切った女性の妹だというだけで拒絶されても仕方がないのに、碧斗さんは私を望んでくれた。彼にとってそれが会社を守るための申し出でしかなかったとしても、私はかまわない。

「それでは、細かい話は後日あらためて詰めるとして、今日のところはこの辺りで」

 おじ様の言葉に、両親の肩から力が抜けるのがわかる。
 私も密かに息を吐きだしたタイミングで、碧斗さんが声をあげた。

「この後、音羽さんとふたりで話をしたのですが、かまいませんか?」

「え、ああ。もちろんです」

 彼の申し出に父が反対するわけがなく、すぐさま同意する。

「帰りは責任をもって、ご自宅まで送りますので」

 話し合いがお開きとなり、両親が帰り支度を整える。
 ここへ来るときは当然ながら深刻な表情をしていたふたりだが、ようやく緊張が解けたようだ。
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