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姉の婚約

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「一嘩も音羽も、そこに座ってちょうだい」

 高校二年生の春休みに、母が私たち姉妹に声をかけた。彼女の隣には父も座っており、畏まった様子にどうしたのかと首をかしげる。

 私の横に少し間をあけて座った、美人だと評判の姉の一嘩をこっそり見た。

 ダークブラウンに染められたロングの髪は、常に手入れが行き届いている。艶めく髪は、思わず触れたくなってしまうほど美しい。
 彼女の身長は平均よりわずかに高く、胸もとは豊かな上に腰は大きくくびれた魅力的なスタイルをしている。

 白くきめの細かい肌は思春期の頃ですらその滑らかさを保っており、とにかく羨ましかった。
 やや切れ長で涼しげな目はくっきりとした二重瞼に縁どられ、全体的にはっきりとした顔立ちをしている。

 自宅の近所で遭遇したときの姉の隣には、いつも異性の姿があった。
 かなりモテる彼女は、恋愛経験も豊富らしい。私が見かけただけでも、一緒にいる男性が何度か変わっていた。

 肩まである黒髪をそっと耳にかけながら、小さく息を吐きだした。
 生真面な性格の私は、律儀に校則を守っているため髪を染めた経験など一度もない。
 身長は平均ほどで、体のラインは姉のようなメリハリがないのが悩みだ。まだ成長途中だと信じたいが、年齢的に考えておそらくこの先に劇的な変化は望めないだろう。

 美人な母に似た姉とは違って、私は愛嬌のある顔立ちをした父似だと思う。

 瞳は大きく黒目がちで、その下の涙袋をチャームポイントだと言ってくれる子もいた。でも全体的にぼんやりとした印象になりかねず、私としてはコンプレックスになっている。
 赤く色づく少し厚めの唇のせいもあり、実年齢より若く見られる顔立ちをしている。大人びた魅惑的な姉とはまるで対照的だ。

「大事な話があるの」

 そう切り出した母をじっと見つめる。

 我が家は、明治時代より和菓子を製造・販売する【波川屋】を営んでいる。
 父が社長を継ぐ何代か前に、うちの商品が大きなコンクールで二年連続して賞を受賞したのをきっかけに、波川屋の名前は全国で知られるようになった。

 近頃は、若者の和菓子離れが進んでいると聞く。
 けれど波川屋では、数年前に発表した旬のフルーツを使った大福が好評で、年代を問わず支持を得ている。
 
 それから、各種のベリー類やキャラメルなどを用いた〝和〟にこだわらない大福や、見映えを意識した宝石のような琥珀糖こはくとうなど、若い人の興味を惹きつける商品開発にも取り組んでいる。

 社長を務める父は職人気質な人間で、昔ながらのものを重んじる傾向がある。
 そこに後継者として従兄が仕事に関わるようになって以来、彼の影響もあって新しさも取り入れてきた。

 従兄の考え方は若者らしく柔軟で、けれど伝統も大事にしている。そのため、古くから務める従業員とも良好な関係を築いているようだ。
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