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十一章
11-7
しおりを挟む「大丈夫よ」
強く抱きしめられ、私の視界はその人物の手で覆われた。「エリザさん?」どうして彼女がここに?どうやってここまで登ってきたのだ?
「どうしてここに?」
「今はいいから、集中しなさい」
私の肩を抱く手に力が込められた。「お姉ちゃん」と私を呼ぶ達也の声が、まるで機械の様にかすれた。「お姉ちゃん、戻ってきて」その声をかき消すように、エリザが強い口調で言った。
「これは幻覚よ。もういいのよ、もう苦しまなくていいの」
私の目を押さえていた手をどかして、彼女は私の頭を撫でた。母に撫でられたときよりも、ずっと気持ちが良かった。私を守ろうとしてくれている、優しい大人の手だった。
不思議と、一気にすべてが落ち着いた。ぐちゃぐちゃになっていた私の心も、涙も、全てが。
温かいひだまりのようなエリザの声が、じんわりと全身に染み込むように入ってきた。今まで探し求めていたものが、少し見えてきたような気がした。
「もう家族のことは捨てていいのよ。だってここは異世界なのよ。もう戻ることは考えなくていいの」
「……いいの?」
「いいのよ。あなたはここで生きていいのよ」
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