わたしの愛した世界

伏織

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十一章

11-2

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彼が今まで崩壊した国で発見した“ねじ”は、魔法の効果が消えていたとはいえ彼には取り除くことができなかったという。破壊も、すでに消滅していたりヒビだらけになっていたりと、彼が手を加えるまでもなくすでに壊れていたのだ。国が滅び、魔法が切れた“ねじ”は役目を終えると、そのまま自己崩壊を始めるのかもしれない。


“ねじ”の前に膝をついて、右手のハンマーを振り上げた。一瞬“ねじ”の周りの空気が変わったような気がした。こちらを警戒している、というよりは、馬鹿にされているような。なんとなくそれを感じてしまうと、やろうとしていたことをやりたくなくなってしまった。


「どうしたの?」


不思議そうに尋ねてくるクロス。私は手にしていたハンマーを放り投げた。少し離れたところに落ちたハンマーは、岩とぶつかってカチンと硬い音を出した。虚しいその音は、私の精神を内側から蝕む様に私の腹の中に強く響いた。確かに、その音で一瞬だけ私の心は揺れた。呼吸が止まった。

心は決まっていた。何をすればいいのか、何をするのか、考えるまでもなかったのだ。あの日、私はこの“ねじ”に触れた。すると、それまで私に危害を加えることがなかった“ねじ”は反発して、私に眠りの魔法を掛けた。つまり、あのとき私は“ねじ”が一番してほしくなかった
事をしたのだ。――――そう、『触れる』という、とても単純なことだ。


ゆっくりと、右手を伸ばす。恐怖がないと言ったら嘘になる。また眠らされるかもしれない。他の魔法が発動して、今度は物理的に傷つけられるかもしれない。

でも、それでもいいと思っていた。たとえ自分が傷ついてもいいと。命を失ってもいい。この国を、世界を守れるのならば。だって私は―――……。





なんの妨害もなく、“ねじ”に手を触れる事ができた。この前は一瞬触れただけで、意識が飛んだというのに。

手に触れた“ねじ”は冷たく、普通の鉄のように思えた。私の手の熱でわずかに温もりつつあるそれは、少し力を入れて引っ張ると、小さくギシッと音を立てた。




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