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十章
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とにかく、ここに戻って来ることができた。私は安心していた。もしあれが現実で、あのまま死んでいたらと考えるとゾッとする。視界に映る光景が急に父親の顔に切り替わった、意識が現実から夢に切り替わったあの瞬間、とても冷静では居られなかった。恐ろしかった。
せっかくここでうまく生きれそうだと思っていたのに、それがすべて、一瞬でなかったことになってしまうのだ。全く恐ろしい。「戻ってこれてよかった」ポツリと口に出すと、不思議と己の中で熱いものが湧き上がった。
「ほれ」
と、クロスがハンカチを投げて寄越した。受け取った瞬間に右の下まぶたを乗り越えて、小さな雫がこぼれ落ちた。
「そういえば、夢の中で弟にミミについて話してたよ」
「へえ。どんな子なの、ミミって」
「アニメに出てくる、あんたみたいに可愛い女の子だよ」
「…………おう」
先程から、クロスは何度も赤面してしまうことが多いようだ。腕組みをした両手に力を込め、肩を縮こまらせている彼は今、ここ数分の中でも一番の赤い顔をしている。目を硬く閉じ、下唇を強く噛み締め、悶え苦しみたいのを全力で我慢している様に見えた。
「なんであんた、地球にいたの」
「師匠がなんかの用事で来るときに、僕も連れてきた事があってね。……僕もこれは、君が初めてここに来たときに顔見て思い出したんだわ」
「そんなに簡単に地球に行けるもんなの?」
「や、師匠が超絶すごい魔法使いってだけ」
そこまで言うと、クロスはなんとも形容しがたいうめき超えのようなものを漏らしながら、目の前のベッドに顔面をうずめた。耳まで赤くなっている。その頭に手を伸ばし、髪の毛に触れた。クロスの肩が、小さくビクリと震えた。細い金髪を指でゆっくりと撫でながら、小さく「ありがとうね」とつぶやいた。
わずかに顔を持ち上げたクロスは、私に頭を撫でられながら、低い声で「うるせーな」とぶっきらぼうに言った。
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せっかくここでうまく生きれそうだと思っていたのに、それがすべて、一瞬でなかったことになってしまうのだ。全く恐ろしい。「戻ってこれてよかった」ポツリと口に出すと、不思議と己の中で熱いものが湧き上がった。
「ほれ」
と、クロスがハンカチを投げて寄越した。受け取った瞬間に右の下まぶたを乗り越えて、小さな雫がこぼれ落ちた。
「そういえば、夢の中で弟にミミについて話してたよ」
「へえ。どんな子なの、ミミって」
「アニメに出てくる、あんたみたいに可愛い女の子だよ」
「…………おう」
先程から、クロスは何度も赤面してしまうことが多いようだ。腕組みをした両手に力を込め、肩を縮こまらせている彼は今、ここ数分の中でも一番の赤い顔をしている。目を硬く閉じ、下唇を強く噛み締め、悶え苦しみたいのを全力で我慢している様に見えた。
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わずかに顔を持ち上げたクロスは、私に頭を撫でられながら、低い声で「うるせーな」とぶっきらぼうに言った。
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