わたしの愛した世界

伏織綾美

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八章

8-13

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さて、二日経った。クロスは相も変わらず部屋にこもりっきりであった。

朝、エリザの寝室の簡易ベッドの上で目が覚めた私は、窓の外がやたら明るいことに気付いた。朝の光とも、そして昼の陽光ともとれない、不思議な明るさだ。時計の読み方がわからないので正確な時間は不明だが、昨晩眠ってから起床したので、おそらくは朝のはずなのだ。


「エリザ?」


微かな、本当に微かな囁き声のようなものが聞こえて、私は上体を起こした。寝言でも漏らしているのかと、ダブルベッドに仰向けに眠るエリザの寝顔を覗き込む。静かに目を閉じ、ゆっくりとした呼吸で胸を上下させているだけで、唇が動いている様子は無い。


「誰?」


囁き声は尚も続き、その中に私の名前を呼ぶ声もしているような気がした。
光の感じや、時間の掴めない様子はまるで夢の様だが、意識ははっきりと覚醒しているのがわかる。試しに頬を抓ると、指先に挟まれた肉の下で確かな痛みがあった。

気でも狂ったか。幻聴かもしれない。
さすがに現実的ではない展開をすぐに受け入れるほど、自分に甘くない。というか、自分の感覚を疑ってしまう。

全て私の気のせいかもしれない、全て私の夢かもしれない、全て幻覚かもしれない。
この世界に来てからずっと、私はその可能性に苦しんでいる。


寝室を出て、玄関の脇に掛けておいた上着を羽織ると、私は外に出た。

空は白く、厚い雲に覆われていた。雲の上に存在する太陽の光が、弱々しく地上を照らしている。空気は冷たく澄んでおり、大きく息を吸った私の灰の中を爽やかに埋めつくした。1歩進んだ私の足首を、朝露のようなものが濡らした。


屋外に出た事で、先程までくぐもったようにしか聞こえなかった囁き声が、さらにクリアに聞こえるようになった。視界を巡らせて囁き声の元を探ろうと耳を済ませると、何やら森の中から声がしている。

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