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八章
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しかし、彼女の家族のことは、私も気になる。夫の方は彼女より十は年上とのことなので、すでに亡くなっている可能性が高いが、娘の方はどうだろう。十二歳で行方不明になってから、三十五年である。生きているとすれば四十七歳だ。
せめて生きているのか死んでいるのか、その事実くらいははっきり知りたいのではなかろうか。
彼女への好意と己の義心から、私もこの真相はぜひとも突き止めたいと思っている。
一番に考えたのは、彼女と何らかの連絡手段を確保しておき、旅の道中でなにか分かったことがあれば知らせる、という物だった。
だが、これはあくまで私のトラウマに近い物なのだが、ライラの二の舞になりはしないかと心配なのだ。
ライラのときは、彼女と別行動を取ることに漠然とした不安を感じていた。その時はなぜなのかわかり様もなかったが、こうなってしまった今では嫌になるほど実感している。あれが私の、クソみたいな救世主とやらの、優れた直感ってやつなのだろう。
それを無視したばっかりに、ライラはあんなことになった。まがい物のハリネズミみたいな、体中から鋭利な針を無数に生やした姿で、ライラは死んだ。夢も希望もあったのに、それを私という一人の人間が関わったせいですべてが無になってしまった。
エリザも、ここに残して行きたくない。そのことを考えると、胃の底がシクシク痛む。置いていくと彼女もライラの様に死ぬかも知れない。しかし、この不安感はもしかすると直感でもなんでもなくて、ただライラの死がショックだったために、また同じことが起こるかもしれないと思い込んでいるだけなのだ。そうだ、その可能性もある。私だって人間だ、いくら直感が優れていたとしても、万能ではない。
なので私は、その話が出る度に同じ答えで逃げている。
「考えさせてください」
.
せめて生きているのか死んでいるのか、その事実くらいははっきり知りたいのではなかろうか。
彼女への好意と己の義心から、私もこの真相はぜひとも突き止めたいと思っている。
一番に考えたのは、彼女と何らかの連絡手段を確保しておき、旅の道中でなにか分かったことがあれば知らせる、という物だった。
だが、これはあくまで私のトラウマに近い物なのだが、ライラの二の舞になりはしないかと心配なのだ。
ライラのときは、彼女と別行動を取ることに漠然とした不安を感じていた。その時はなぜなのかわかり様もなかったが、こうなってしまった今では嫌になるほど実感している。あれが私の、クソみたいな救世主とやらの、優れた直感ってやつなのだろう。
それを無視したばっかりに、ライラはあんなことになった。まがい物のハリネズミみたいな、体中から鋭利な針を無数に生やした姿で、ライラは死んだ。夢も希望もあったのに、それを私という一人の人間が関わったせいですべてが無になってしまった。
エリザも、ここに残して行きたくない。そのことを考えると、胃の底がシクシク痛む。置いていくと彼女もライラの様に死ぬかも知れない。しかし、この不安感はもしかすると直感でもなんでもなくて、ただライラの死がショックだったために、また同じことが起こるかもしれないと思い込んでいるだけなのだ。そうだ、その可能性もある。私だって人間だ、いくら直感が優れていたとしても、万能ではない。
なので私は、その話が出る度に同じ答えで逃げている。
「考えさせてください」
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