わたしの愛した世界

伏織

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八章

8-8

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蓄音機の横にしゃがんだクロスが、杖の先を床につけたまま、クルクルと宙をかき混ぜた。静かな音が蓄音機から流れ出した。ガサガサ、ドタバタという物音がしばらく続き、くぐもった悲鳴のようなものが聞こえた。男性のもののような、低い声だ。


「あの親父だろうね」

「切り取られでもしたのかな。........何をとは言わんけど」




そう嘲弄しながら、私は鼻で笑った。生前の彼の姿は僅かにしか見ていないが、無様に色ボケた汚い中年男性だった。初対面の者に対して、あのような無礼な言動が出来るなんて、不愉快極まりない。私の父親と同類だ。


ドアを開くような音と靴音、何かが転がるような鈍い音がする。小さな、押し殺したような女性の悲鳴も聞こえてきた。そして、悲鳴とは別の女の声が、冷たく響く。


“あんた、ほんと癇に障る女だね”


かすれ気味の、低い声だ。足音がコツコツと、階段を降りてくる。

私は目を閉じて、思い浮かべた。階段を転がり落ちるライラ、そしてそれを見下ろしながら、ゆっくりと階段を降りてくる女。ライラは倒れ込んだ。


“逃げんじゃないよ”

“私はなんにも知らないのよ、本当に!
あなたが探してる子供なんて、本当になんにも知らない!”

“生意気だねぇ!”


うぐっ、と小さなうめき声。何かを引きずって、ぶつける音。髪の毛を引っ張られでもして、木箱の方へと連れていかれたのだろう。


“さっさと白状しな”

“知らない、なんにも知らない”


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