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八章
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それもそうだ。となると、犯人、ーーーおそらくあの女かあの女の仲間には、この国の軍の人間で、かつ特殊な任務を主に行う役の者なのだろう。まぁ、ライラの有様を見ればわかる事だが、罪人の拷問、尋問を得意とする者である。
それにしても、やり方が残酷すぎる。
クロスか綺麗にした時に、ライラの頭から落ちた斧が床に転がっている。柄の先にも血痕が付いていた。刃に付いたものとは、おそらく別の場所の血痕だろう。彼女の身体の、別の場所。考えるのもおぞましい。
ただ針で刺していくだけで、親指を締め付けるだけでも充分な拷問だろう。それなのに、ライラを女として辱めるなんてことは、まるっきり必要の無いことだ。そこまでしなくても、拷問は出来るだろうに。
いや、そもそも拷問が目的なのか?........ただ痛めつけたかっただけ、という可能性もある。先程話したように、犯人らがルークの関係者ならば、それもあるだろう。
「ミミ、これを使えばライラと犯人のやり取りが分かるかもしれない」
と、クロスは蓄音機を指差した。彼の魔法を使えば、この蓄音機に蓄積された物の記憶を再現できるというのだ。
「まぁ、数時間前位の記憶ならすぐわかるでしょ。
問題があるとすれば、精神的なものかな?」
「........まぁ、もうこれ以上悪くもなるまいよ」
精神的なものなら、もう既に壊れてる。
4年前から父親の手で徐々に壊されていったと思っていたが、実の所、私の心は丈夫ではあった。思いのほか壊れてはいない、これはこの世界に来てから実感した。だが、ここには優しい人が多かった。クロスや、マルトや、クラウスさんや、ライラや、エリザや、この村の人達。
知らないうちに、私は他人に対して愛情を持ってしまっていた。だから壊れた。傷付いた。ライラが死んでしまうと分かっていたら、仲良くはしなかった。名前すら聞かなかった。
だってライラがどんなに素晴らしい女性か知ってしまった私は、彼女が死んだことを悲しんでしまっている。彼女にはまた会いに来ると約束したのに、それも守れなくなった。
そうか、人を愛してしまうと、弱くなってしまうのか。
いや、そもそも私は強くも無かったのだ。全てを諦めて、抵抗もしなかった。
「ミミちゃん」
惚けている私の肩を、エリザが掴んで揺らした。「しっかりしなさい」と、正面から私の目を見つめ、強い口調で言う。
「この状況でショックを受けるのは当たり前のことよ。でもね、考えることを止めたらダメよ。
自分を責めても状況は良くならないわ」
赤っぽい瞳に、私の姿が写っている。彼女の双眸は僅かに濡れ、電球の光を反射しているように見えた。心臓の音が徐々に落ち着いていく。胸を締め付けるような感覚も無くなり、靄がかかったようになっていた視界がハッキリと、クリアになっていった。
「........すいません、ありがとうございます」
肩を掴むエリザの右手を握り、体の前に下ろした。彼女の手は汗ばんでいた。
それにしても、やり方が残酷すぎる。
クロスか綺麗にした時に、ライラの頭から落ちた斧が床に転がっている。柄の先にも血痕が付いていた。刃に付いたものとは、おそらく別の場所の血痕だろう。彼女の身体の、別の場所。考えるのもおぞましい。
ただ針で刺していくだけで、親指を締め付けるだけでも充分な拷問だろう。それなのに、ライラを女として辱めるなんてことは、まるっきり必要の無いことだ。そこまでしなくても、拷問は出来るだろうに。
いや、そもそも拷問が目的なのか?........ただ痛めつけたかっただけ、という可能性もある。先程話したように、犯人らがルークの関係者ならば、それもあるだろう。
「ミミ、これを使えばライラと犯人のやり取りが分かるかもしれない」
と、クロスは蓄音機を指差した。彼の魔法を使えば、この蓄音機に蓄積された物の記憶を再現できるというのだ。
「まぁ、数時間前位の記憶ならすぐわかるでしょ。
問題があるとすれば、精神的なものかな?」
「........まぁ、もうこれ以上悪くもなるまいよ」
精神的なものなら、もう既に壊れてる。
4年前から父親の手で徐々に壊されていったと思っていたが、実の所、私の心は丈夫ではあった。思いのほか壊れてはいない、これはこの世界に来てから実感した。だが、ここには優しい人が多かった。クロスや、マルトや、クラウスさんや、ライラや、エリザや、この村の人達。
知らないうちに、私は他人に対して愛情を持ってしまっていた。だから壊れた。傷付いた。ライラが死んでしまうと分かっていたら、仲良くはしなかった。名前すら聞かなかった。
だってライラがどんなに素晴らしい女性か知ってしまった私は、彼女が死んだことを悲しんでしまっている。彼女にはまた会いに来ると約束したのに、それも守れなくなった。
そうか、人を愛してしまうと、弱くなってしまうのか。
いや、そもそも私は強くも無かったのだ。全てを諦めて、抵抗もしなかった。
「ミミちゃん」
惚けている私の肩を、エリザが掴んで揺らした。「しっかりしなさい」と、正面から私の目を見つめ、強い口調で言う。
「この状況でショックを受けるのは当たり前のことよ。でもね、考えることを止めたらダメよ。
自分を責めても状況は良くならないわ」
赤っぽい瞳に、私の姿が写っている。彼女の双眸は僅かに濡れ、電球の光を反射しているように見えた。心臓の音が徐々に落ち着いていく。胸を締め付けるような感覚も無くなり、靄がかかったようになっていた視界がハッキリと、クリアになっていった。
「........すいません、ありがとうございます」
肩を掴むエリザの右手を握り、体の前に下ろした。彼女の手は汗ばんでいた。
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