111 / 176
七章
7-15
しおりを挟む
よくよく見てみると、扉のドアノブには乾いた血液のようなものが僅かについていた。そして、扉を開けた先には煌々と明かりの点いた部屋があり、中のベッドにより掛かるようにして、知らない女性が目を閉じて座っていた。女性の着てる服の胸部から腹部にかけて赤く染まっている。胸の部分の布地に縦に細い、小さく穴が開いているのを見た感じでは、その赤はもともとの服の色ではなさそうだ。
エリザが私に近寄り、扉を少し開いて中を覗き込んだ。中にあるものを確認して、私の肩を手で押して扉から遠ざけた。静かに扉を閉めると、早足で他の客室の扉を近い順から開けては閉めて、中を次々と確認し始めた。
流石に私は肝が少し冷えてしまった。エリザが二階の客室をすべて確認して戻ってくるまで、近くのヒビの入った窓から外を眺めていた。暗がりの中、クロスらしき人影が大股であちこちへ歩いて回っているのが見えた。外には街灯があったはずだが、今はそれがどうしてかすべて消えているようだ。クロスの持つ杖の先が光っており、それがちょこちょこと家々の間を動いていた。
「皆死んでいるわ。ほとんどがベッドの上ね」
「寝ていたところを、ですかね」
「でしょうね。皆、首を深く切られて死んでいたから、ベッドが真っ赤だったわ」
「洗濯じゃ綺麗にするのも一苦労ですね」
他人事のような口調で、そう軽口を叩いてしまった。エリザに怒られるかと思ったが、彼女は何故か安心した様子で微笑んだ。「少しは落ち着いたみたいで、良かったわ」
「ごめんなさい、不謹慎なことを言いました」
「いいのよ。神妙にされる方がめんどくさいわ」
と、ここで私はあることに気付き、廊下の角を見つめた。角には階段があり、降りた先には宿のカウンターがある。その横に宿の食堂への入口のドアがあったはずだ。そしてカウンターの右の通路を進んだ先に大浴場とトイレ。カウンターの奥に二つの扉。おそらくその二つの扉のうち一つが、宿の奥さんたちの居住スペースだろう。
この宿の奥さんには、まだ小さな息子がいたはずだ。
エリザが私に近寄り、扉を少し開いて中を覗き込んだ。中にあるものを確認して、私の肩を手で押して扉から遠ざけた。静かに扉を閉めると、早足で他の客室の扉を近い順から開けては閉めて、中を次々と確認し始めた。
流石に私は肝が少し冷えてしまった。エリザが二階の客室をすべて確認して戻ってくるまで、近くのヒビの入った窓から外を眺めていた。暗がりの中、クロスらしき人影が大股であちこちへ歩いて回っているのが見えた。外には街灯があったはずだが、今はそれがどうしてかすべて消えているようだ。クロスの持つ杖の先が光っており、それがちょこちょこと家々の間を動いていた。
「皆死んでいるわ。ほとんどがベッドの上ね」
「寝ていたところを、ですかね」
「でしょうね。皆、首を深く切られて死んでいたから、ベッドが真っ赤だったわ」
「洗濯じゃ綺麗にするのも一苦労ですね」
他人事のような口調で、そう軽口を叩いてしまった。エリザに怒られるかと思ったが、彼女は何故か安心した様子で微笑んだ。「少しは落ち着いたみたいで、良かったわ」
「ごめんなさい、不謹慎なことを言いました」
「いいのよ。神妙にされる方がめんどくさいわ」
と、ここで私はあることに気付き、廊下の角を見つめた。角には階段があり、降りた先には宿のカウンターがある。その横に宿の食堂への入口のドアがあったはずだ。そしてカウンターの右の通路を進んだ先に大浴場とトイレ。カウンターの奥に二つの扉。おそらくその二つの扉のうち一つが、宿の奥さんたちの居住スペースだろう。
この宿の奥さんには、まだ小さな息子がいたはずだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる