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七章
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「やっぱ、行くのやめない?」
エリザの持ち物である小さな手鏡を借りて、クロスは魔法で村の様子を見ていた。どうやら、鏡であればなんでも良かったようだ。
クロスの肩越しに鏡を覗き込むと、村の建物が見えた。あの女の騒ぎようでは、村人が起きてもおかしくないはずだ。しかし、村の中は暗く静まり返っており、まるで廃墟のように思えるほどだった。
私がもし村人だったら、あの女を捕まえようとする。そして捕まえても、捕まえきれずに逃がしてしまっても、夜通し警戒して当たりを見回りを続ける。
この村の住人は、途方もなく呑気なのか?それとも........。
「じゃあクロスだけ居残りしていいよ」
「や、君とエリザさんだけで行くってのは、それは僕的に一番心配なやつだから」
まぁ、16の小娘と老婆のコンビでこの家から村まで往復するというのもね。仕方ない、と言った様子でため息をつきながら、クロスは手鏡をテーブルに置いた。玄関のドアの横に立てかけていた杖を私が取り、彼に押し付ける。心底気乗りしない顔でそれを受け取ると、クロスは空いてる方の手でエリザの腕を掴んだ。
「あらやだ。私は奴隷じゃないのよ」と、エリザはクロスの手を振り払うと、彼の手を優しく握りしめた。そのまま、ほら、と私にも片手を差し出してくる。特に拒否する理由もないので、私はそれを握りしめた。
「じゃ、よろしくね、クロスくん」
「とりあえず、宿の部屋にしてくれ」
私と手を繋いだこともあるし、別に手を繋ぐことなんて珍しいことでもないのに、クロスは顔を強ばらせて立ち尽くしていた。何だこいつは、もしかして熟女が趣味か。
「エリザさん、前にどこかでお会いしましたか?」
「さあ?私はあなたとは初対面だと思うけど、知らないうちにどこかですれ違っていることもあるかもねえ」
いきなりなんてことを訊くのだ、とクロスに向かって目で訴えるが、肩を竦めるだけだった。エリザは特に疑問にも思わないらしく、ニコニコと変わらない調子で答えた。
「まいっか、さっさと確認して戻ろう」めんどくさそうな口調でつぶやき、クロスは杖を掲げた。
布団圧縮袋に無理やり押し込められて、空気を抜かれるような感覚を一瞬だけ味わった。もはやおなじみの気持ち悪さに、私は強く目を閉じた。そして、再び目を開けると、暗くてどんよりとした空気の部屋の中に立っていた。
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