わたしの愛した世界

伏織綾美

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六章

6-10

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なんにせよ、文字が読めるのはいいことだ。これなら、文字を覚えるのにもいいだろう。それにしても、彼が当初このメガネでしていた「変装」は、さほど意味がないと悟ったらしい。この国が魔法使いを嫌っているとはいえ、国民はクロスのことを知らない。ライラは成り行きで知ってしまったが、あの性格なら、言いふらすようなことはしない。


歴史書を読み勧めていくと、やはり魔法使いについての記述も数多く見られた。その全てが魔法使い憎しの感情を掻き立てるような内容ばかりで、少し気分が悪くなった。





この国の最初の王様は、とある魔法使いとともに元住んでいた国を逃げ出し、旅をしながら人を集め、国を立ち上げた。魔法使いはとても強い魔力を持っていたが、性格はとても悪く、王様以外の人間には一切従わず、気に入らない者は次々と殺していったという。
しかし、魔法使いの問題行動と王様は咎めなかった。偶然かわざとか、魔法使いが殺す人間は大なり小なり王様にとって邪魔な人物ばかりだったのだ。

国はどんどん大きくなり、やがて周囲の国も恐れるほどの大国に成長した。魔法使いは国に大きく貢献した一番の臣として、かなりの財と名声を得た。この時点では、魔法使いの本性を知る者はまだ少なかった。本性を知ったものはほとんど殺してしまった。上手く言いくるめて騙してしまった。


しかし狡猾な魔法使いも、ある日とんでもない失敗を犯してしまう。酔って王様の妻を侍女と勘違いして襲い、殺してしまったのだ。
王様は怒り、魔法使いを塔に幽閉した。魔法使いは身動きが取れないように拘束され、何十年も拷問を受けた。

拷問を受けながらも、魔法使いは長い間生きながらえた。彼は人知れず魔法を使っていたのだ。魔法で己の体の時を止め、いつまでも若いままの状態で保ったのだ。拷問の傷も、魔法で即座に治癒させて、外見の傷口だけを残した。
魔法使いではない他の者達は、強力な魔法使いには杖や手を自由に扱えなくても、魔法が使える者がいるということを知らなかった。

長いこと拷問を受けながらもなかなか死なない魔法使いに、老年となった王様はしびれを切らした。自分の手で殺そうと、当時最新兵器として発明されたクロスボウを手に、魔法使いのもとに向かった。

魔法使いはその時を待っていた。王様が自分の元に来る、その時を。

王様が魔法使いの前に現れたその時、魔法使いは満面の笑みを浮かべたという。そして、「待っていたよ、友よ」とだけ言った。見えない力で己を拘束していた鎖が外れると、ただ、ふうっと息を吐いた。

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