85 / 176
六章
6-6
しおりを挟む
村の広間の周りに、集会所や宿屋、店等が集まっており、住居は100にも満たない数ではあるが、比較的若い世代の人間も多い。そのため、他の点在している村に比べれば栄えている方らしい。ライラのように、他の土地からやってきて住み込みで働く者も少なくはないそうだ。
「この宿はね、うちの息子夫婦がやってるのよ」
宿屋の扉を開きながら、老婆が若干誇らしそうに言った。
そういえば、私には祖父母が居たのだろうか?生まれてから一度も、居るという話を親から聞かなかった。もちろん、会ったこともない。そもそも、今まで祖父母というものについて考えもしなかった。私の世界は、親と弟と、殺した猫や歪んだ環境だけだったのだ。なんとも恥ずかしい。
宿屋の扉に取り付けられたベルが鳴り、カウンターの奥から若い女性が出てきた。黒髪の、泣きぼくろがある女性だ。
「お義母さん、いつもありがとうございます」
「いいのよ。家族ですもの、助け合わないと」
老婆の言葉が、図らずも私の胸を締め付けた。家族とは、助け合うものなのだ。都合よく利用するものではない。
「お客さんを連れて来たよ。あなた達、旅の人?」
「はい。一晩ほど泊まらせていただけたらと」クロスに目配せをしながら答えた。そんなに長居する必要はなく、ちゃんとしたベッドで眠って疲れを癒やせれば、それでいい。若い奥さんはニッコリと愛想笑いを浮かべ、カウンターの上の台帳を開いて部屋を確認しだした。意外と宿泊客は多いらしい。台帳の中は半分近く埋まっているのが見えた。
「ベッドが二つの部屋が、ちょうど後一つ空いてますよ」
「良かったわねえ、ゆっくり休めるわよ」
「あの山は越えるのは楽ですけど、それでも普通に歩くのとは違いますからねえ」
「この宿はね、うちの息子夫婦がやってるのよ」
宿屋の扉を開きながら、老婆が若干誇らしそうに言った。
そういえば、私には祖父母が居たのだろうか?生まれてから一度も、居るという話を親から聞かなかった。もちろん、会ったこともない。そもそも、今まで祖父母というものについて考えもしなかった。私の世界は、親と弟と、殺した猫や歪んだ環境だけだったのだ。なんとも恥ずかしい。
宿屋の扉に取り付けられたベルが鳴り、カウンターの奥から若い女性が出てきた。黒髪の、泣きぼくろがある女性だ。
「お義母さん、いつもありがとうございます」
「いいのよ。家族ですもの、助け合わないと」
老婆の言葉が、図らずも私の胸を締め付けた。家族とは、助け合うものなのだ。都合よく利用するものではない。
「お客さんを連れて来たよ。あなた達、旅の人?」
「はい。一晩ほど泊まらせていただけたらと」クロスに目配せをしながら答えた。そんなに長居する必要はなく、ちゃんとしたベッドで眠って疲れを癒やせれば、それでいい。若い奥さんはニッコリと愛想笑いを浮かべ、カウンターの上の台帳を開いて部屋を確認しだした。意外と宿泊客は多いらしい。台帳の中は半分近く埋まっているのが見えた。
「ベッドが二つの部屋が、ちょうど後一つ空いてますよ」
「良かったわねえ、ゆっくり休めるわよ」
「あの山は越えるのは楽ですけど、それでも普通に歩くのとは違いますからねえ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……

異世界立志伝
小狐丸
ファンタジー
ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。
さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる