わたしの愛した世界

伏織

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六章

6-6

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村の広間の周りに、集会所や宿屋、店等が集まっており、住居は100にも満たない数ではあるが、比較的若い世代の人間も多い。そのため、他の点在している村に比べれば栄えている方らしい。ライラのように、他の土地からやってきて住み込みで働く者も少なくはないそうだ。


「この宿はね、うちの息子夫婦がやってるのよ」


宿屋の扉を開きながら、老婆が若干誇らしそうに言った。
そういえば、私には祖父母が居たのだろうか?生まれてから一度も、居るという話を親から聞かなかった。もちろん、会ったこともない。そもそも、今まで祖父母というものについて考えもしなかった。私の世界は、親と弟と、殺した猫や歪んだ環境だけだったのだ。なんとも恥ずかしい。


宿屋の扉に取り付けられたベルが鳴り、カウンターの奥から若い女性が出てきた。黒髪の、泣きぼくろがある女性だ。


「お義母さん、いつもありがとうございます」

「いいのよ。家族ですもの、助け合わないと」


老婆の言葉が、図らずも私の胸を締め付けた。家族とは、助け合うものなのだ。都合よく利用するものではない。


「お客さんを連れて来たよ。あなた達、旅の人?」


「はい。一晩ほど泊まらせていただけたらと」クロスに目配せをしながら答えた。そんなに長居する必要はなく、ちゃんとしたベッドで眠って疲れを癒やせれば、それでいい。若い奥さんはニッコリと愛想笑いを浮かべ、カウンターの上の台帳を開いて部屋を確認しだした。意外と宿泊客は多いらしい。台帳の中は半分近く埋まっているのが見えた。


「ベッドが二つの部屋が、ちょうど後一つ空いてますよ」

「良かったわねえ、ゆっくり休めるわよ」

「あの山は越えるのは楽ですけど、それでも普通に歩くのとは違いますからねえ」


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