わたしの愛した世界

伏織

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六章

6-5

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山の麓には、山向の町とは違い木製の家屋が並ぶ村があった。かなり栄えているようには見えなかったが、寂れた村とも違うようだった。山の中から続いていた道がそのまま村まで続いており、迷子になる心配もなかった。


「よし、じゃ、ありがとうね」


村の入口の手前で、ライラが立ち止まって快活な声でそう告げた。「私が居たら邪魔みたいだし、もうこの村で仕事探すよ」確かに邪魔では会ったが、それが彼女に伝わってしまうほど、私達は上手く隠し通せていなかったようだ。申し訳ない気持ちになったが、少し安心もしていた。人間としての相性、というものがあるし、何より長く一緒に行動するとなると、旅の目的を多少は話さなくてはならなくなる。


「ごめんなさい、あなたのことが嫌いというわけでは無いのですが」

「分かってるよ。何か言えない事情があるんでしょ。深くは関わらないでおくよ。頑張ってね」

「はい。ライラさんも、色々とその……、気をつけて」


お元気で、と言うべき場面だったが、私の口をついて出たのは「気をつけて」だった。ライラは少し不思議そうな顔をしながらも、しっかりと頷いた。「じゃあね」と言い残し、彼女は私達を残してさっさと村の中へ駆けていった。振り向きもせずこの村には彼女の居場所もまだないはずなのに、迷いのない足取りで。


「あの人について気になることがあったんじゃないの?」

「もういいよ、何が引っかかるのかわかんないし」

「あっそ。ま、あんだけエネルギーのある人なんだし、ほっといても逞しく生きていくでしょ」


クロスの言う通り、彼女は逞しい。ルーク達から長時間逃げ回ったあの力さえあれば、きっとこの先どんな苦しみが待っていても、彼女は踏ん張っていける。


村の入口には木で作られたアーチが設けられていたが、柵などで周りを囲んだりはしていない。形として一応、という感じの入口だった。入り口のすぐ近くに家が数件並び、道を十メートルほど進んだ先に、大きく開けた広間がある。


「すいません、ここって宿はありますか?」


広場の手前えちょうどすれ違った老婆を呼び止めて尋ねると、老婆はにこやかに応じてくれた。片手に大きな大根に似た野菜を持ち、背には小さな芋がたくさん入った籠を背負い、凄く重くて大変な状況のはずなのに、優しくて奥の深い笑顔を浮かべるのだ。


「こっちよ。ちょうどあたしも野菜を届ける予定だから、一緒に行きましょう」


お言葉に甘え、老婆の後ろについていくことに。老婆の年齢は70代に見えた。白髪交じりの髪を一つにまとめ、深緑の幅の広い紐で結んでいる。服装はくたびれた茶色のシャツに、裾をゴムで絞ったズボンを身に着けている。「おばあさんは農家ですか?」


「そうねえ、畑もやっているけど、いつもは小さな食堂を開いているわ。あなた達も後でぜひ来て頂戴」

「いいですねえ。後でお邪魔します」







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