わたしの愛した世界

伏織

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六章

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 六章



あの後、人生で初めて寝袋で寝た。満足に腕を伸ばせないし、入口付近に寄りかかって座る形で無理やり寝たので体が痛かったが、それを除けば満足な睡眠が取れたと感じる。少なくとも体力は回復している。

クロスも私も起床したのは朝早くだったが、ライラが起きるまで待とうという事になり、結局麓に向けて出発したのは昼過ぎだった。かなり遅いお目覚めだったが、昨日の出来事と洞穴から這い出てきた彼女の充血した目と血の気のない肌を見ていると、文句を言う気にはなれなかった。むしろ、もっと休んでいてくれても良かったと思った程だ。

全員が起床し、準備が整った後、私達は自分たちが登ってきた舗装された山道まで戻って来た。そして目的の町まで、損びりと歩き始めた。


「ごめんね」


持ってきていた荷物はすべてルークたちに捨てられてしまったため、彼女には私の服をあげた。私より少し身長が高く、胸も大きいため少々窮屈そうだったが、着るものが無いよりはずっとマシだろう。「気にしないでください。困った人を助けるのは当然のことです」


「でも、本当はもっと早くに出発したかったでしょう」

「そりゃそうですけど、別に急いでるわけでもないですし」

「他人のせいで予定が狂うってのは腹立たしく感じることもあるけど、ミミも言うとおりそんなに急いではいないし、そんなことでいちいち怒るような心の狭さも持ち合わせて居ないからねえ」


自分で言うかね。クロスは至って大真面目、おふざけも傲慢さも微塵も含まれない、澄んだ表情だった。

無骨な石畳で作られた道は、登ってきた道と比べると比較的歩きやすかった。軽いコースとはいえ、登山と下山の違いなのだから、歩きやすいのは当然ではあるが。登りの道には木々が多く、あまり日光に照らされなかったが、下りの道は木が少ない。そのため、日の光が良く差し込み、草花も茂っている。
ライラは歩きながらその中の一本の花を摘むと、結い上げた己の金髪にスッと差し込んだ。葉に埋もれて咲いていたくすんだ青の小花が、彼女の髪の上では鮮やかな群青に見えた。


「ほい」
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