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五章
5-15
しおりを挟むクロスと同じように私も膝を抱え、頭を彼の腕に押し付けた。「私はお前の母親じゃないんだぞ」そう言って、少し心がチクリとした。母親として、甘える対象として彼を扱っているのは私も同じだ。よくわからない仲間意識なのかもしれない、多少異性としての気持ちもあるのかもしれない。しかしそれ以上に、自分の弱い気持ちを誰かに押し付けていたかったのだ。
「そんなこと言われても、僕母親ってなんなのかわかんないからどう改善したらいいのかわかんない」
「そりゃそうだな。じゃあ、いいか」
「そのうち適切な距離感がつかめるといいけど」
「適切、ねえ……」
互いに掛けたものが多すぎて、それを補うことに精一杯だ。これ以上の適切が無いようにも感じる。口が裂けてもクロスには言いたくないが、彼とこうして身を寄せ合うだけでも、私はものすごく安心するのだ。こいつと一緒にいる限り、自分は人間で居られるような。
「まあ、僕はこの状態がすごく安心するので、無理して接し方を変えなくてもいいと思っていますが」
「気持ち悪い」
なに、この子。めちゃめちゃ素直じゃん。余計本心を知られたくなくなった。
私も同じ気持ちだと知られたら、少なくとも現時点では間違いを犯してしまうような気がしてならない。彼もだが、私自身も。
「………っ!!」
「あら」
洞穴の中から、気怠げだが必死な様子の叫び声が漏れ聞こえてきた。ライラだ。きっと夢にうなされているのだろう、嫌だ、やめてという言葉が、舌足らずだが私の耳に届いた。
「助けてよかったね」
「……うん」
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