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五章
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急に、背後で叫び声が上がった。振り返ると、前歯の男が真っ赤な顔をおもしろく歪め、甲高い声で言葉にもならない絶叫をあげている。手に持った小さなナイフを振り回し、大きな熊かイノシシを追い払おうとでもしているかのような、なんとも鬼気迫る様子で私に向かって来た。
「うるさいですよ」
至極まともなことを注意したが、男の絶叫にかき消されてしまった。立ち上がる私に反応して、男はナイフを持つ手を頭上に振り上げた。そのまま私に向かって一歩踏み出し、次の二歩目を踏み出そうと足を持ち上げた瞬間、
「うぎっ」
と面白い呻き声を上げて、その場から後方へと勢いよく吹き飛んだ。まるで透明な巨人にでも蹴飛ばされたみたいに。
吹き飛んだ男は、ちょうどその先にあった木にぶつかり、宙に一瞬とどまって再び同じ木に衝突した。そして木の幹に張り付いた全身が上下に激しく動き、男は顔をこすられながら悲鳴を上げた。さすがに人間をすりおろす様子は見てられないな。
女性の腕を押さえて居た男が慌てて逃げ出し、闇の中に消えた。女性も心配だし、追いかけるために走るのも面倒だから、あれは放っておこうと思う。
「もうやめな」男が張り付いた木のそばに立っている人物に、私はそう声をかけた。そいつは素直に従ったが、男を解放する前に首の骨を見えない力で捻じりあげた。男の悲鳴はそこで途切れ、あたりは急に静かになった。無様に落下して、木偶人形のように力なく転がる死体。猿ぐつわを噛まされた女性が、くぐもった弱々しい悲鳴を上げた。
「ああ、忘れてた」
私は女性に歩み寄ると、細かく震える体を起こし、猿ぐつわを外してやった。
「一応確認しておきますが、彼らとは合意の上でしたか?」
「……合意じゃないです」
「でしょうね。ーーーーおい」
木の陰から拗ねた顔で出てきたクロスに声をかける。すぐに察した彼が、自分のマントを脱いでこちらに投げて寄越した。それを受け取ると、彼女の肩にかけてやった。
「あっ」
「うるさいですよ」
至極まともなことを注意したが、男の絶叫にかき消されてしまった。立ち上がる私に反応して、男はナイフを持つ手を頭上に振り上げた。そのまま私に向かって一歩踏み出し、次の二歩目を踏み出そうと足を持ち上げた瞬間、
「うぎっ」
と面白い呻き声を上げて、その場から後方へと勢いよく吹き飛んだ。まるで透明な巨人にでも蹴飛ばされたみたいに。
吹き飛んだ男は、ちょうどその先にあった木にぶつかり、宙に一瞬とどまって再び同じ木に衝突した。そして木の幹に張り付いた全身が上下に激しく動き、男は顔をこすられながら悲鳴を上げた。さすがに人間をすりおろす様子は見てられないな。
女性の腕を押さえて居た男が慌てて逃げ出し、闇の中に消えた。女性も心配だし、追いかけるために走るのも面倒だから、あれは放っておこうと思う。
「もうやめな」男が張り付いた木のそばに立っている人物に、私はそう声をかけた。そいつは素直に従ったが、男を解放する前に首の骨を見えない力で捻じりあげた。男の悲鳴はそこで途切れ、あたりは急に静かになった。無様に落下して、木偶人形のように力なく転がる死体。猿ぐつわを噛まされた女性が、くぐもった弱々しい悲鳴を上げた。
「ああ、忘れてた」
私は女性に歩み寄ると、細かく震える体を起こし、猿ぐつわを外してやった。
「一応確認しておきますが、彼らとは合意の上でしたか?」
「……合意じゃないです」
「でしょうね。ーーーーおい」
木の陰から拗ねた顔で出てきたクロスに声をかける。すぐに察した彼が、自分のマントを脱いでこちらに投げて寄越した。それを受け取ると、彼女の肩にかけてやった。
「あっ」
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