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五章
5-4
しおりを挟む女の脚から手を放し、ゴソゴソと何やらしながらこちらを振り返った男は、なかなかにハンサムだった。こんな状況でなかったら、気のいい好青年に思えただろう。
「一体、何をしているのですか」
「大人にしかわからないことさ」
「襲っているのでは?」
「このお姉さんも望んでこうなっている。喜んでしていることだから、心配しないでいいんだよ」
「……」
なるほど。確かに、そういう嗜好の方々の可能性もある。悲鳴を上げるのも楽しみの一つで、周りに騒がれないように森の中で行っているのかもしれない。
女の目を見つめた。何かを訴えるように私を見つめ返し、猿ぐつわされた口からよだれを垂らしながら荒々しく唸っている。険しく眇めた目は爛々と光り、とても何かを楽しんでいるようには見えない。
「……なるほど。では邪魔をして申し訳ございませんでした。キャンプに戻ります」
「それ、近いの?」
「まあ、遠くはないですね」
好青年は爽やかな笑顔を浮かべ、背を向けようとした私の元に駆け寄ってきた。
「じゃあお兄さんがそこまで送っていくよ。危ないからね」
そして優しく肩に腕を回し、耳元で囁いた。「怖がらなくていいからね」
はっきり言って、こんなに男に対して不快感を覚えたのは初めてだ。他人の吐瀉物で動物の糞を煮込んだスープを飲む方がまだマシに思えてくるほど、胸の奥から血液が一気に噴き出すような気分の悪さだ。
さて、私は右手にナイフを持っているわけだが、青年は全く危機感が無い様子。か弱い小娘がナイフを持っていたところで、大した脅威ではないと思っているのだろうか。もしくは気付いてすらいないのか。
「なんか、むかつくなあ」
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