61 / 176
四章
4-15
しおりを挟む
クロスが魔法で作った焚き火を前に、ゆっくりと地面にしゃがんだ。ウサギも横に並んで焚き火を見ている。まあ、切り替えよう。
私は腰のベルトのロープを手繰り寄せ、ウサギが逃げられないようにしっかりと握りしめた。もう片方の手で新品のナイフを鞘からゆっくりと引き抜き、ウサギの頭に刃先を向けた。
「無理そうなら僕がやろうか?」とクロスが言う前で、私はナイフの刃を躊躇いなくウサギの後ろから、首の後ろあたりに刺した。ウサギは短く鳴き声を上げ、前足をビクッと動かした。
「何が無理そうに見えた?」
見上げたクロスの顔は面白いほどに引きつっており、信じられない、と唇が動くのが分かった。私という人間に対しての嫌悪感がある様子ではないが、私が簡単に生き物の命を奪ったことに不安を覚えたようだ。
我ながら不思議に感じなくもない。このウサギを捕まえたときから、確実に生命を奪うビジョンが見えていた。どこからナイフを刺して殺すのかを、頭の中で何度も試した。そして実際に殺しても、気持ちはフラットなままだった。
生まれて初めて生命を奪い取った。そのことに何も感じない。先程クロスとの会話で「私は健全」だと返したが、果たして本当にそうだと言い切れるのだろうか。
「結界張ってくる」
硬い声で言い残し、クロスはその場から離れた。驚きと悲しみが入り混じったような複雑な彼の表情に、私の心まで傷付いた。生きる上で、人が他の生き物の命を奪うことはごく当然のことである。しかし、生まれて初めて生き物を殺したにしては、何も感じない。
「ーーーま、いっか。考えても仕方ない」
結局、こうなるのだが。考えてもすぐに答えが出ないのなら、今は保留にしておけばいいのだ。ただの感傷に浸る要素として、このことを深く考えてしまうことが問題だ。それはただの逃避であり、進歩にはなりえない。
よくわからないが、自分なりにウサギを解体しながら、なんとなく小声で歌を口ずさんだ。ウサギおいしい、かの山……。
私は腰のベルトのロープを手繰り寄せ、ウサギが逃げられないようにしっかりと握りしめた。もう片方の手で新品のナイフを鞘からゆっくりと引き抜き、ウサギの頭に刃先を向けた。
「無理そうなら僕がやろうか?」とクロスが言う前で、私はナイフの刃を躊躇いなくウサギの後ろから、首の後ろあたりに刺した。ウサギは短く鳴き声を上げ、前足をビクッと動かした。
「何が無理そうに見えた?」
見上げたクロスの顔は面白いほどに引きつっており、信じられない、と唇が動くのが分かった。私という人間に対しての嫌悪感がある様子ではないが、私が簡単に生き物の命を奪ったことに不安を覚えたようだ。
我ながら不思議に感じなくもない。このウサギを捕まえたときから、確実に生命を奪うビジョンが見えていた。どこからナイフを刺して殺すのかを、頭の中で何度も試した。そして実際に殺しても、気持ちはフラットなままだった。
生まれて初めて生命を奪い取った。そのことに何も感じない。先程クロスとの会話で「私は健全」だと返したが、果たして本当にそうだと言い切れるのだろうか。
「結界張ってくる」
硬い声で言い残し、クロスはその場から離れた。驚きと悲しみが入り混じったような複雑な彼の表情に、私の心まで傷付いた。生きる上で、人が他の生き物の命を奪うことはごく当然のことである。しかし、生まれて初めて生き物を殺したにしては、何も感じない。
「ーーーま、いっか。考えても仕方ない」
結局、こうなるのだが。考えてもすぐに答えが出ないのなら、今は保留にしておけばいいのだ。ただの感傷に浸る要素として、このことを深く考えてしまうことが問題だ。それはただの逃避であり、進歩にはなりえない。
よくわからないが、自分なりにウサギを解体しながら、なんとなく小声で歌を口ずさんだ。ウサギおいしい、かの山……。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
『シナリオ通り』は難しい〜モブ令嬢シルクの奮闘記〜
桜よもぎ
ファンタジー
────シルク・フェルパールは、とある乙女ゲームでヒロインの隣になんとなく配置されがちな“モブ”である。
日本生まれ日本育ちの鈴水愛花はひょんなことから命を落とし、乙女ゲームのモブキャラクター、大国アルヴァティアの令嬢シルクに転生した。
乙女ゲームのファンとして、余計な波風を立てず穏やかなモブライフを送るべく、シルクは“シナリオ通り”を目指して動き出す。
しかし、乙女ゲームの舞台・魔法学園に入学してからわずか二日目にして、その望みは崩れていくことに……
シナリオをめちゃくちゃにしてくるヒロイン、攻略対象同士の魔法バトル勃発、お姫様のエスケープ、隣国王子の一目惚れプロポーズ─────一難去ってはまた一難。
これはモブ令嬢シルクが送る、イレギュラー続きの奮闘記。
【※本編完結済/番外編更新中】
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
シニカルな話はいかが
小木田十(おぎたみつる)
大衆娯楽
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました
桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。
召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。
転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。
それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる