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四章
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「死んだら安らかに寝かせてほしいな」
ふざけて肩を軽く小突くと、彼は足元の木の根に躓いて転んでしまった。私よりも先に死んでしまいそうだ。
私達はその後3時間ほど、山の中を歩いた。ずっと何の変哲もない上りの山道だったが、少し先に看板が立っているのが見付けた。
近くまで来たところでクロスが読み上げる。そう言えば私、ここの文字が読めない。
曰く、「この分岐を右に行くと、頂上。左に行くと、まもなく下りの道」ということらしい。
「どうする?頂上で「やっほー!」って叫んどく?」
私はクロスを振り返った。ハアハアと息を切らした彼は、濁った上目づかいで私を睨みつせた。
私も最初は彼のペースに合わせようとした。しかし幼稚園児にも負けるような亀の歩みだったので、つい一時間ほど前からは私が先に立つことにしたのだ。二時間も甘やかしてやったのだ、私の狭い心ではこれ以上は我慢できなかった。
「………どっかで休むか」そう声をかけると、無言で頷いてその場にしゃがみこんだ。
「ここは流石に邪魔じゃないかな」
まあ、上りで一人も他の人とすれ違わなかったし、そんなに邪魔ではないだろうけど。
周囲を見回してみた。あまり険しい土地でもないようだ。かすかに水の流れる音も聞こえるので、近くに小川がありそうだ。
そういえば、少し前にもこんな風に水の音を聞いて山の中を素足で歩いたな。あのときはここみたいに草木は生えていなかったし、見つけたのは気持ち程度に流れる毒の水だったけれども。最悪の思い出だ。
「ちょっと周りを見てくるよ。いい?」
クロスはつらそうな表情で私を見上げた。いつの間にやら、手には水の入った瓶とチョコレートがあった。
「別に構わないけど、あんまり遠くまで行かないでね。あんまり歩きたくない」
嘘でもいいから「君のことが心配だから」とかかっこいいこと言えばいいのに。自分が歩きたくないだけかよ。
よし、ものすごく遠くまで行って、魔法で探させてやろう。
.
ふざけて肩を軽く小突くと、彼は足元の木の根に躓いて転んでしまった。私よりも先に死んでしまいそうだ。
私達はその後3時間ほど、山の中を歩いた。ずっと何の変哲もない上りの山道だったが、少し先に看板が立っているのが見付けた。
近くまで来たところでクロスが読み上げる。そう言えば私、ここの文字が読めない。
曰く、「この分岐を右に行くと、頂上。左に行くと、まもなく下りの道」ということらしい。
「どうする?頂上で「やっほー!」って叫んどく?」
私はクロスを振り返った。ハアハアと息を切らした彼は、濁った上目づかいで私を睨みつせた。
私も最初は彼のペースに合わせようとした。しかし幼稚園児にも負けるような亀の歩みだったので、つい一時間ほど前からは私が先に立つことにしたのだ。二時間も甘やかしてやったのだ、私の狭い心ではこれ以上は我慢できなかった。
「………どっかで休むか」そう声をかけると、無言で頷いてその場にしゃがみこんだ。
「ここは流石に邪魔じゃないかな」
まあ、上りで一人も他の人とすれ違わなかったし、そんなに邪魔ではないだろうけど。
周囲を見回してみた。あまり険しい土地でもないようだ。かすかに水の流れる音も聞こえるので、近くに小川がありそうだ。
そういえば、少し前にもこんな風に水の音を聞いて山の中を素足で歩いたな。あのときはここみたいに草木は生えていなかったし、見つけたのは気持ち程度に流れる毒の水だったけれども。最悪の思い出だ。
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嘘でもいいから「君のことが心配だから」とかかっこいいこと言えばいいのに。自分が歩きたくないだけかよ。
よし、ものすごく遠くまで行って、魔法で探させてやろう。
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