わたしの愛した世界

伏織

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四章

4-5

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「現実だよ」私の考えていることが分かったかのように、クロスは言った。


「これは現実。君は親に殺されたし、君の親は君にひどいことをした。いくら夢だと思い込もうとしても無駄だよ」

「…………」

「僕には想像でしか言えないけど、自分の親を悪者だと認めるのはすごく辛いんだと思う。でも、自分自身が悪いと思い込むことで、その事実から逃避するのは良くないことじゃないかな。
君は君なりにかなり頑張ったほうだと思うよ。その頑張りを自分で否定するのはやめてほしいな」


確かにそのとおりだが、簡単には切り替えができないこともある。自分の生みの親だ。信じていたかった。私は幸せな人生を送っていたと、少しでも思いたかった。


「出過ぎたことを言っちゃったね。ごめん。とにかく、僕は君を信じるよ」

「........いや、ありがとう。嬉しいよ」

「おう」


「クロスは自分の親のことはなんにも知らないの?」

「さあ?この国のどこかの、めちゃめちゃ魔法使いを嫌ってる集落に住んでるってことしか」


彼の口ぶりからして、本気で興味がないらしい。そりゃあ、生まれてすぐのクロスを殺そうとした人たちだ。会いたいと心から希望することはないだろう。生みの親よりなんとやら、彼にとっては実の両親よりも、自分を助け育ててくれたモルドールの方がよっぽど親のようなものだろう。


「まさか、探そうなんて考えてないよね?」

「そんなこと考えてないよ。あんたのこと傷つけたくないし」


正直に答えた。クロスは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして、私を見た。「お、おう」どうやらちょっと驚かせてしまうようなことを言ってしまったようだが、自分ではよくわからない。


「ま、とにかくどんどん行っちゃおうよ」

「いや……、できればゆっくり行きたいんだけど」

「クロスが虚弱体質なせいでこの国は滅ぶかもしれない」

「まじで許して。そんなすぐには体力つかんでしょ」








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