わたしの愛した世界

伏織綾美

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四章

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四章



「マルトには酷いことを言ってしまった」


町の中でずっとつけていた変なメガネ──気にしなさ過ぎて存在を忘れていたな──を外しながら、クロスが言った。


「つーか泥棒ってどういうこと?地図もキャンプ道具もちゃんと揃ってるんだけど」


町を出て、私達は崖の階段の反対側、森が広がっている方向に進んでいた。彼の言うとおり、彼のカバンの中には見た目以上に物が入っている。それは分かるが、周りの人からどう見えるかを考えていないのだ、この童貞は。


「あのね、旅をしている人がこんなに軽装なわけないんだよ。もっとたくさん荷物を抱えてたりするの」

「えぇ?でも重いのは嫌じゃん」

「そうだね、それは私も同意だよ。──とにかく、怪しまれたからそういうことにしただけ」


他の国なら、魔法でカバンの中の容量を拡張してると言っても問題は無いだろう。昨日のマルトの表情──........、恐怖と嫌悪感でいっぱいのあの表情。あれを思い浮かべたら、この国では魔法のことはとても人に話せない。


「クロス、そう言えばあんたはこの町の奥にある大樹のことを知ってる?」

「もちろん。何者かが上の大岩をずらして山の水源を塞いだ。それをどっかの魔法使いが起こした地震で転がした。それをあの木が受け止めた。
最初に水源を塞ぐためにあの大きさの岩を動かしたのは多分魔法使いか、大勢の人間だよね。どちらもありえる」


と、クロスは森の中に見える大樹を指さした。マルトの話よりもずっと簡潔だった。(恐らくは)大きな誤解と、恐怖、先入観、無理解、そんなところだろう。それらが合わさって、この国では魔法使いが嫌われている。互いに話し合いでもして、意見を擦り合わせて落とし所を見つけていければいいのだが、........そんなもの不可能だ。


「ま、どうせ無理やりにでも魔法使いが悪いって話を聞いたんでしょ?顔に出てる」

「まぁね。マルトの話では魔法使いが全面的に悪者ってことになってる」
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