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三章
3-13
しおりを挟む翌日、昼前に起きた私達は早速出発することにした。昨日は食事の後、風呂に入ってすぐに床に入った。そしてどうしてか、クロスを抱き枕にしていた。何やら悪い夢を見て彼を絞め殺しそうになって一度叩き起された以外は、思いの外快適な寝心地だった。
「君さ、なんなの?童貞からかってたのしい?」
「ああ、非常に愉快だね」
「僕って傷つきやすいから、あんまりいじめないでほしいな」
「心なんて筋肉みたいなもんだよ。どんどん痛い目にあって鍛えていけば、もっともっと強くなる」
「筋トレもやりすぎたら体に毒でしょ」
軽口の応酬をしながら、部屋を出て宿屋の玄関まで降りてきた私達を、マルトが出迎えた。昨日は二つに分けてお下げにしていた赤毛を、今日は1つ結びにしていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」太陽のような眩しい笑顔を浮かべ、何やら丸めた紙を差し出してくる。朝の挨拶をしながらそれを受け取り広げて見ると、拙い手描きで何かの地図が書いてあった。
「これね、国の地図だよ!荷物が盗まれたんなら、地図もないのかなって思ったの。昨日わたしがそれに気付かなくて買うように言えなかったから、早起きして描いたんだ」
えぇ........?なにこのすごくいい子。マルト作の地図は、地図としての役割を果たせるかどうかというと、全く無理だ。線も文字もぐちゃぐちゃだ。でもこれは、私の宝物だな。
感動している私の横から地図を覗き込み、クロスは顎に手を当ててフムと唸った。
「そもそも縮尺が安定してないし、形や土地の名前もごちゃごちゃ........あっ」
己の言葉にマルトが顔を曇らせたことに気付いて、クロスが気まずそうに言葉を切った。「人生のほとんどを師匠以外の人と接触せずに過ごした」と言っている割には、結構人と話せるじゃないかと思っていたが、なるほど。言わなくてもいいこと、空気を読むことが壊滅的にわかってない。確かにこいつは、外界との接触が極端に少ない人生を送ってきたのだろう。
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