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三章
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あの後、私達は宿屋に帰った。彼女は母親の手伝いをしに行き、私は部屋に戻った。
「おい、クロス」
真っ暗な部屋の中に、カーテンを開けたままの窓から外の光が入り込む。その弱い光に照らされ、ベッドに横たわるこの国の嫌われ者の体の輪郭が浮かび上がっている。仰向けに寝ている彼の胸が静かにゆっくりと上下に動き、それに合わせて深い呼吸の音が聞こえた。
後ろ手に部屋の鍵を掛けながら、荷物を床に置いた。腰に巻いていたナイフのベルトを外し、荷物の上に乗せた。
「お前どんだけ寝るんだよ」
「........んん?あー、どうもこんにちは」
「もうすぐに夜だぞ」
青白い光に照らされ、彼の瞼がわずかに開いた。私はベッドに片手を乗せ、そのまま体重をかけた。そのままベッドに上がり、布団を捲って中に潜り込むと、驚いて固まっているクロスの頭を己の胸に抱きしめた。
左足をクロスの足の上に乗せ、腹部の上で膝を曲げた状態で寝そべった。
「いきなりなんなの?」
「いいから、しばらくこのままでいさせてくれない?」
「........別に構わんが」
彼の金髪に指を絡め、サラサラとした毛髪を撫でた。外の光を受けて緩やかに輝いている髪の毛は、間近で見ると惚れ惚れとしてしまうほど綺麗だった。
彼の身体の上に乗せた足の下に、徐々に存在感を増すものがあるのがわかったが、私は何も言わずに更に彼を強く抱きしめた。
「クロス........、私は己の汚さに嫌気がさしてきたよ」
「................」
腕の中でクロスの頭が動いて、私の顔を見上げているのがわかった。手首に何か温かいものが触れ、優しく掴んできた。彼の手だった。彼は私の手を少し引きながら、わずかに身体を動かした。
「お姉ちゃんたち!ご飯だよ!」
部屋のドア越しにマルトの声がする。「わかった、すぐ行く」ドアを振り返って答えると、私は腕を解いてベッドから起き上がった。
「ご飯だって。食べに行こう」
「........うん。あの、」
「なにさ」
クロスは何かを言おうと口を開いたが、すぐに閉じて俯いた。小さく首を振り「なんでもない。僕は着替えてくから先に行ってて」
まぁ、なんというか、........彼にはすぐには人前に出れない事情があるしな。そのことを伝えたかったのだろう。
少々申し訳ない気持ちでなるべく急いで部屋を出たので、その後クロスが呟いた言葉に気付くことはなかった。
「どんなことをしたとしても、君はずっと綺麗だと思うけどね、ミミ」
.
「おい、クロス」
真っ暗な部屋の中に、カーテンを開けたままの窓から外の光が入り込む。その弱い光に照らされ、ベッドに横たわるこの国の嫌われ者の体の輪郭が浮かび上がっている。仰向けに寝ている彼の胸が静かにゆっくりと上下に動き、それに合わせて深い呼吸の音が聞こえた。
後ろ手に部屋の鍵を掛けながら、荷物を床に置いた。腰に巻いていたナイフのベルトを外し、荷物の上に乗せた。
「お前どんだけ寝るんだよ」
「........んん?あー、どうもこんにちは」
「もうすぐに夜だぞ」
青白い光に照らされ、彼の瞼がわずかに開いた。私はベッドに片手を乗せ、そのまま体重をかけた。そのままベッドに上がり、布団を捲って中に潜り込むと、驚いて固まっているクロスの頭を己の胸に抱きしめた。
左足をクロスの足の上に乗せ、腹部の上で膝を曲げた状態で寝そべった。
「いきなりなんなの?」
「いいから、しばらくこのままでいさせてくれない?」
「........別に構わんが」
彼の金髪に指を絡め、サラサラとした毛髪を撫でた。外の光を受けて緩やかに輝いている髪の毛は、間近で見ると惚れ惚れとしてしまうほど綺麗だった。
彼の身体の上に乗せた足の下に、徐々に存在感を増すものがあるのがわかったが、私は何も言わずに更に彼を強く抱きしめた。
「クロス........、私は己の汚さに嫌気がさしてきたよ」
「................」
腕の中でクロスの頭が動いて、私の顔を見上げているのがわかった。手首に何か温かいものが触れ、優しく掴んできた。彼の手だった。彼は私の手を少し引きながら、わずかに身体を動かした。
「お姉ちゃんたち!ご飯だよ!」
部屋のドア越しにマルトの声がする。「わかった、すぐ行く」ドアを振り返って答えると、私は腕を解いてベッドから起き上がった。
「ご飯だって。食べに行こう」
「........うん。あの、」
「なにさ」
クロスは何かを言おうと口を開いたが、すぐに閉じて俯いた。小さく首を振り「なんでもない。僕は着替えてくから先に行ってて」
まぁ、なんというか、........彼にはすぐには人前に出れない事情があるしな。そのことを伝えたかったのだろう。
少々申し訳ない気持ちでなるべく急いで部屋を出たので、その後クロスが呟いた言葉に気付くことはなかった。
「どんなことをしたとしても、君はずっと綺麗だと思うけどね、ミミ」
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